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フィルは黙って話を聞く。リースに双子の弟がいたという事実は過去にも聞いたことがあるが、ここまで詳細にそのときのことを語られるのは初めてだった。
「……だが、お腹が大きくなるに連れ、次第に国王の体調は思わしくなくなっていった。このままでは三人揃って死んでしまうかもしれないといったときに、まるでアイル一人が犠牲になったように死産となったんだ」
「そんな……」
「だから王配は、何もアイルが死んでよかったと言っていたわけではない。アイルがその尊い命をもって俺や国王を守ってくれたことを説いて、国王を元気づけようとしていただけなんだ」
事の全貌を知り、納得がいった。
王配は国王と比べ、やや冷たい性格だと思われがちだが、間違っても我が子をぞんざいに扱うような人ではない。先日ウォルターから聞いた話によれば、王配は現在、自分のせいでリースが事故に遭い、人間不信となってしまったことをひどく気に病んでいるらしかった。
「……まあ、俺がそこまで理解できたのも、それから数年が経った十歳あたりの頃だったんだが。子どもの理解力では、ただ言葉の通り『アイルが生まれてこなくてよかった』と言っているようにしか受け止められなかったんだ。アイルが誤解するのも無理はない」
「……私のほうから、事実をお伝えしておきましょうか」
尋ねると、リースはありがとうと頷いた。その声も表情も痛いくらいに優しくて、フィルはふと、言いようもない切なさを覚える。
「……坊ちゃま」
口にして、フィルはリースを抱き寄せた。
全く同じ体なのに、人格がアイルになっているときとは違う感覚、違う感情――
「どうした、フィル」
鼓膜を揺らす声さえも、どうしてか全く別のものに感じた。この声であと何百回、何千回名前を呼ばれてもまだ足りない。死ぬまでそばにいて、何度でも繰り返し名を呼んでほしい。
「坊ちゃま……今晩はずっと、こうしていてもいいですか」
耳元でそっと尋ねると、リースはしばし黙考する。
「……アイルに戻るまでなら」
返ってきた言葉を聞いて、フィルはリースを抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。
「もちろんです、坊ちゃま。坊ちゃまが坊ちゃまでいる間、私はずっとこうしていたいのです」
もちろん、話したいことだっていろいろある。でも今日は、どうしてだかひどくリースの体温が恋しかった。他のどんな言葉を交わすよりも、ただこうしてじっと抱き合っていたかった。
リースがそっと、背中に腕を回してくれる。
今宵の空には、月が浮かんでいなかった。
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