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 翌朝、昼食を終えるなり、アイルと一緒に商店街に出かけることになった。もともとはシモンの食材調達のための外出だったのだが、気分転換にとアイルも連れていくことになったのだ。  立場上、リースはこれまでできる限り人との接触を避けていた。もちろんアイルとて無闇矢鱈に表立った行動を取るのは控えるべきなのだが、瞳の色が緑色になった今、仮にリースの容姿を知っている人間と遭遇しても、他人のそら似と言い切ることは可能だ。館を出る前に『リースの名前を絶対に口にしないこと』を約束して、ともにフランツの御する馬車に乗り込んだ。 「ご覧くださいアイル様、市場まであと少しですよ」  ちょこんと隣に座って俯くアイルへと、フィルは窓の外を指して言う。アイルはのろのろと視線を上げて、それからぱっと瞳を輝かせた。 「わあ……お店がいっぱい!」  少し明るくなった表情に、フィルはほっと安堵する。商店街につくなり、フランツに馬車を任せてアイルとシモンと三人で商店街の探索を開始した。  出店の多くは食料品を扱っており、必要な食材を見つけ次第シモンは着々と買い物を済ませていく。アイルは自分の嫌いな野菜を見つけるたび、逐一「それはいらないよ」と口出ししてシモンを困らせていた。 「ねえねえフィル、僕、あれ食べたい」  数メートル先に見えるフルーツタルト屋さんを指差して、アイルが言う。アイルのほうから何かを食べたいと主張するのは久しぶりで、フィルは快く了承した。  一休みもかねて、購入したタルトを片手に三人でテラスに腰掛ける。 「結構歩きましたねー。いい食材も手に入ったし、今日の夕食も腕が鳴るな〜」  ほっと一息ついて、シモンが言った。  十一月下旬と肌寒い季節ではあるが、雲一つない晴天で陽射しが気持ちいい。アイルを元気づけるための外出だったはずが、フィルのほうこそ、いつになく穏やかな気分になっていた。  リースが事故に遭った日から、フィルはもうずっとこんな落ち着いた気分で外出なんてできていなかった。 「シモン、今日は何を作ってくれるの? 僕、オムライスがいい」  ぱくぱくとタルトをかじりながら、アイルがねだるようにシモンを見る。 「んー……でも、オムライスは一昨日したばかりですよ? 今日は新鮮な野菜が手に入ったので、それでポトフを作ろうかと……」  「僕、野菜嫌い。オムライスがいい!」 「ええー。そうは言ってもですねぇ……」  シモンが助けを求めるように視線を送ってくる。ウォーレン、クラウスあたりはアイルの相手をするのがうまいのだが、シモンやフランツに関しては、まだたじたじといった感じだった。もっとも、フィルも人のことは言えないのだが……

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