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第10話

 エントランスのチャイムがなり、亀谷は酔った頭でめんどくせえ…と無視しようとしたが、その音は何度も鳴り舌打ちしてインターフォンを取る。 「しつけえな!なんなんだよ!」 「ラッコ運送です〜亀谷様でよろしいですか?生ものが届いていますので、宅配ボックスに入れられなくてですねー」  ラッコのマークの入ったキャップを被った児島が、手に持った箱を掲げてにっこり笑っている。 「生ものだ?誰からだ」 「ええっとぉ、尾崎誠二様からですね。内容はケーキとなっております〜」 「尾崎(おやじ)から?ケーキ?なんだ?俺誕生日だっけ…?」  酔った頭で色々考えるが、なんだかよくわからないが昨日破門になっていたはずだが…と酔った頭で考える。  が、あの一件の前にでも送ってあったのか、それともケーキと書かれているが違う何かなのか。その意図が知りたくて、亀谷は受け取ることにした。 「解った。持ってきてくれ」  とりあえず起き上がって3階の自室まで荷物が来るのを待つ。  そして自室のチャイムの音に 「なんだかわかんねえけどめんどくせえな。受け取ったら寝ちまおう」  と、立ち上がり玄関の鍵を開けた、途端ドアがグイッと引っ張られ、なんだと思う間にドアに立ち塞がった黒い壁に廊下の奥まで蹴り倒された。 「なっなんだおmぐあっ!」  奥までスライディングして行った亀谷は、即座に起き上がって臨戦体制を取ろうとしたが瞬時に胸に人が乗ってきたかと思ったらその顔面をいきなり踏みつけられる。踏んでいる姫木が 「てめーの顔見てると虫唾が走るんでな、まずその顔変える」  そう言って靴を履いたままの足で顔面を何度も踏みつけ、亀谷は体を揺すって両手でどかそうとはするが大の男に体ごと立たれていて払いきれなく、手足をバタつかせ変な声を上げ続けていた。  その間に戸叶と佐藤はリビングであろう部屋のドアを全開にし、  降りるついでに股間も踏みつけて動けないようにした姫木は、足を引っ張ってリビングへと亀谷を引き摺り込む2人を見ながら、中で待機する。  身長も188ある姫木とそうそう変わらない上に、体格がいい亀谷だったが、(いと)も簡単に引き摺り込まれて行った。 「ほ…まへら、そうひゅうかはぁいの…」  前側の歯が全滅になり、徐々に溜まる血液もあって喋る言葉も不明瞭な亀谷はやっと3人を確認した。  尾崎が言っていた『本家から化け物が来る…』という化け物がこいつらか。  姫木は長ドスを前に立て、そこに両手を置いて亀谷を見下ろし、戸叶は亀谷の脇に立って、喉元を踏みつけてそこに徐々に力をこめていた。  佐藤も戸叶の反対側で亀谷の腕を踏みつけて、全体重をかけている。 「おまえ…よくも…」  戸叶の目が血走り、手に持ったナイフを顔の脇に突き立てた。  亀谷の口が泡を吹いて血溜まりでうがいのような悲鳴をあげると、右耳が床に跳ねている。 「いっぺんにはやらねえ…兄貴の痛みも思い知れ」  喉をもっと踏みつけると、ゴボゴボと音を立ててー苦しいーと言っているような言葉も聞こえるが、それは聞かない聞こえない。  口の中が血で溢れて、声が出しにくそうだ。  血溜まり(それ)を出そうとはしているが、顔面蹴られて顎でも外れているのか力が入らないらしい。 「うるせえな」  戸叶はそう呟いて、落ちていた耳を亀谷の口に突っ込み 「喋んな」  と言い捨てて、 「まずは兄貴の分」  と、広がっていた手のひらまで行き、ナイフを立てて右手の薬指を落とした。 「こんなん誰も欲しがらねえだろうから…」  と指を拾ってまた口に突っ込む。  粛々と兄の復讐をしてゆく戸叶を、姫木は中々やるな…と薄く笑いながら見ていた。 「お前のなんて、誰にも移植できないしな…とりあえずガワから行こうかな…」  全部の指を落とし全部口に突っ込み、指が全損した右手首にナイフをぶっさしてそのまま放置し、今度は足元へ。  亀谷は恐怖と痛みで動けなくなっている。 「兄貴連れ出したこんな足もいらねえな」  持ち込んでいた1mほどのバールを持ち、それを振り上げると一気に膝へ振り下ろした。嫌な音がして骨が砕ける。 「おごごごごごごごごっ」  亀谷から流石に声が上がり、指の2.3本が溢れて落ちた。  「おー、戸叶すげえな。狂気だな」  佐藤が流石に呆れて、踏んでいた腕から降りた。 「まあ、思いの丈を亀谷に伝えてるのは良いことだ」  相変わらず長ドスを前に薄ら笑っている姫木は、お前も手伝えば?と佐藤にけしかける。 「いやあ〜俺なんか生ぬるくて、今の戸叶に太刀打ちできねっすよ〜」  などと言いながら、実は結構胸糞悪い気分でいた佐藤もグローブを付け、顔のあたりに移動し、落ちた指を再び口に突っ込んでやる。 「俺もね、結構腹立ってるんだよ。しかもさ、仕上げすんの俺たち初めてやるから手加減も出来ねえし、綺麗にもやってられねえんだわ。悪いな」  亀谷のもうぐったりした目に向かって言うと、首の辺りに跨ってその顔面を左右から殴りつけた。  口から血が撥ね、口の中の指や耳が吹っ飛ぶ。それでももう何発かを力の限り見舞って、ようやく上体を上げ 「人生最後の食いもんなんだから、大事に食わないとなぁ」  そう言って、吹っ飛んだ近場にあった指2本と耳をまた口に突っ込んで、最後に顔面に拳を振り下ろした。  その際古着屋で結構したスカジャンに血が跳ね、佐藤は舌を鳴らす。  亀谷の上下の顎はもう左右が逆にずれていて、開いた口からはもう、グルグル…と言う『音』しか聞こえない。  若い者が思うままに亀谷をいじる様を眺めて、姫木はたいそう満足そうに戸叶に問う。 「で、最後はどうするんだ?」 「本当なら、兄貴と同じ目に合わせたいんすけど、学がないんで…しかもこんな奴の真っ黒い中身使えないだろうから…このまま失血でもいいし、心臓一突きでも…まあ一気にいかせるのもなあ…」 「なんだよ考えてねえのかよ」  姫木と会話しながらも、戸叶はバールを太腿に垂直に叩きつけたり、1番の弱点の股間をぐりぐりと押し込んだりしている。 「いじり倒すことしか頭に無かったっす。簡単には逝かせたくねえし、こいつ()って、兄貴と同じところに行かせるのも兄貴が可哀想で」  そう言う考えもあるか… 「でもこいつはこっち行きだぞ?」  姫木は親指だけ立てた指を下に向ける 「ああ、そうか…それなら別に()っちゃったっていいのか…なるほど」  そう言いつつ戸叶はバールを持ったまま胸に乗り上がり、潰れたトマトのようになっている亀谷の顔を見下ろして 「やっちゃっても良いらしいぞ…」  と口だけで笑うと、亀谷の目らしきところから水が流れているのが目に入る。 「兄貴もなぁ怖かったろうな…お前どんな目に遭わされたって、兄貴の恐怖には追いつけねえんだよ…一気に()るのは本当に惜しいけど、お前が地獄()に堕ちるなら兄貴は関係ねえからな」  憎悪の目で睨みつけ、バールを両手に握り締め足を両肩の上に踏ん張るとバットを構えるように肩にかついだ。 「俺は内角低めが大好物なんだよ」  そう言って、亀谷の頭を目掛けてバールを振り下ろそうとした瞬間 「やめておけ」  ドアの方から冷静な佐伯の声がして、戸叶は腕を止め鬼の形相で振り向いた。 「お前なんつー顔してるんだよ。嫌いじゃねえけど」  佐伯は破顔して、ドアの向こうから1人の男性を部屋へ…と思ったがあまりの惨状にちょっと戸惑い 「お前が来い」  と、戸叶自身はまだ返り血もちょっとなので、戸叶を呼びつける。  頭が朦朧として、亀谷を()っちゃうことしか考えていなかった戸叶は、それを邪魔されて佐伯にまで嫌な顔をして亀谷から降りた。 「まあまあ良いから来いって」  相変わらず笑って戸叶を指で呼んで、近づいてきた戸叶をドアの外に引っ張り出す。  それを姫木と佐藤は不思議そうに眺めていたが 「え…?なんで…」  そんな戸叶の声が聞こえ、姫木が歩いてドアへとやってきた。  佐伯に促されドアの外を覗くと、陽一に抱きついた戸叶兄弟が床に蹲っている。  その兄弟の後ろに尾崎と兎月を確認した姫木は、益々ーなんだ?ーと言う顔で佐伯をみつめた。 「兄貴生きてた…んだ!よかったっあああよかったぁぁああ」  兄に縋り付いて一気に緊張がほぐれたような戸叶が、昔に戻ったように兄に縋って泣き叫んでいる。 「何事だ?」 「話してもそんなに長くはないんだけどな」 「なんだそりゃ」 「さっき尾崎の組に行っただろ?俺。亀谷(部下)の動向は把握してんのか?って強気で乗り込んでったらさ、そこに陽一さん居てな…」 「?」 「陽兄…俺…陽兄がてっきり…」  子供の時のように兄にしがみついている戸叶だったが、陽一も戸叶をしっかりと抱き留め 「泣くなよ…?お前昔から泣き虫で…」  そういう陽一の声も涙声である。  とにかく戸叶が、憑き物が取れたような顔で陽一にしがみついているのが印象的だ。

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