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マスカレード①

 冬馬は、6月の初来店の日からというもの、毎週土曜の夜に来店し、その度に必ず千景を指名した。おかげで土曜は冬馬の専属になっている。  千景は、冬馬がなぜ自分をここまで気に入ってくれたのかわからないままだ。しかし、冬馬は千景にあれこれ質問してくることはないし、無理に関係を深めようという様子も感じられない。気を張って接客する必要がなくて楽である。  個室で2人ゆっくり話をする日もあれば、一緒にダーツをして遊んだりもする。 「ダーツあんまり上手じゃないんですね。ちょっと意外です」    冬馬がダーツをする姿を見て、千景はきょとんとした顔をして言う。  いかにもスポーツマンな見た目の冬馬だが、ダーツの矢はなぜか真っすぐ飛んではいかず、得点は千景の方がいつも倍くらい高い。投げ方が違うのかとじっくり観察してみたが、自分と変わらない気もするし、千景は首をかしげる。 「そんな目で見ないでよ……。よし、チカちゃんは自信がありそうだから勝負しよう」  冬馬は肩をすくめて不貞腐れたように言う。 「え?勝負ですか?僕はいいですけど、冬馬さんは大丈夫ですか?絶対に負けると思いますけど」 「……チカちゃんはほんとに正直者だなぁ。次は大丈夫!絶対勝つ」  にやりとして言う。冬馬は普段、穏やかで落ち着いた雰囲気だが、時々子どもっぽさを感じる。千景は、冬馬が本当に9つも年上なのか疑いたくなる時がある。 「じゃあ、どうする?」 「どうするって?何をですか?」 「負けたらだよ」 「罰ゲームみたいな?」 「そう!せっかくの勝負だからさ!」  冬馬は絶対に負けるはずなのに、この余裕はどこからくるのか千景は不思議で仕方がない。

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