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同性を好きであるということ
千景が同性を好きだと自覚したのは、中学の時だった。
体育教師になりたての千景のクラスの副担任は、とても眩しくて爽やかでかっこよかった。見かけるといつも周りを生徒に囲まれていたので、話しかけたりすることはなかったが、千景は遠巻きに眺めるだけで十分だった。
中学1年の夏の日、その年初めての水泳の授業があった。
プールサイドで、初めて自分が憧れる先生の水着姿を見たとき、一瞬で身体がゾワゾワして、自分のあそこが少しずつ熱くなっていくのがわかった。見たらいけないと思いながら、ちらちらと先生の水着を盗み見た。薄い水着の下に隠れた膨らみの正体を想像してしまう。
千景は勃起した。
周りにいるクラスメイトにばれないよう、体育座りをして縮こまった。身体は熱いのに、頭の中は真っ白だった。
「どうした?」
動こうとしない千景に先生が心配そうな顔で話しかける。
「……ちょっと気分が悪くて」
「少し休むか?立てる?」
まだあそこは完全にはおさまっていなかったので、千景は座ったまま隠していたかったが、他の生徒の邪魔になるので動かざるを得なかった。
そして最悪なことに、勃起していることを先生に気付かれた。優しい先生は、肩にかけていたスポーツタオルを千景に手渡して、「前にあてときな」と小声で囁いた。
羞恥で全身の血の気が引き、手足がガクガクと震えた。まともに先生の顔を見ることもできない。更衣室で急いで着替えて、気分が悪いとクラスメートに伝えて保健室へ逃げ込んだ。
生徒が勃起していることに気付いた先生は、きっと女子の水着姿に反応したと思っただろう。思春期にはよくあることだと先生はすぐに忘れてくれるだろうか。
中学生になりクラスメートの男子たちが女子の話をすることが急に増えた。教室の隅でエッチな本やイラストをこっそり見せ合ったり、誰の胸が大きいだの、あいつとあいつがキスしてただの、一日中、女子のことを考えているんじゃないだろうかと思ってしまうほどだった。
しかし千景は全く興味を持てずにいた。女子の体なんて想像することはなかったし、したいとも思わなかった。
(自分は男の水着姿に興奮するんだ。こんなのおかしい。変態じゃないか)
自分は周りの男子と比べて何かが違うという違和感は抱いていた。その違和感の正体をまざまざと自覚させられたあの水泳の授業で受けた衝撃は、一生忘れることはないだろう。
千景はその後、水泳の授業に参加することはなかった。
辛い過去の記憶の一部となった先生が、仮面舞踏会イベントに、千景が受付をしていた最悪のタイミングで訪れたのだ。千景は仮面を着けていたので、先生は千景には気付いていないだろう。それだけが救いだった。
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