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偏愛Ⅱ《竜side》2
2週間後、あの思い出の曲を覚えている限りギターでなんとなく弾けるようになった。
俺はMAR RE TORREメンバーの皆の前でゆっくりとギターでその曲を弾き始めた。
そしてそのメロディを聞いて宝さんが歌い出す。
「竜…お前アメリカにいたことあるのか?」
「はい。確か7歳ぐらいのときに家族旅行で。2週間ぐらい滞在して、そのとき会った女の子と一緒に歌ってた」
母は元ピアニストで、父は母のピアノが好きで。
二人が好きな有名ピアニストのコンサートがあるからと唯一した家族旅行。
あの時はまだ、ひー兄への暴力は無かったから幸せだった。
「竜…その女の子は宝だ。宝が探してたユウって竜のことだったのか」
確かに言われて見れば髪色も同じだし、あの時の女の子の面影があるかも。
それにあのメロディ…
あれは正しくあの子と同じだ。
「《でも彼はユウじゃないわ。リュウよ。日本人は―……名前が―…?》」
「《―…竜って……ユウって…》」
あぁもう英語は分からない!
だけど、あの女の子との思い出は―…
「あの時、この曲を歌って星空を見ながらクリームソーダを一緒に飲んだよね?」
あの子がメロンソーダを飲んでいて、
俺がバニラアイスを食べていて、
お互いにそれを交換して、
次の日からは二人でクリームソーダを飲んで。
俺のその発言を聞いて、宝さんは俺に飛び付いた。
「―…ユウ」
メロンソーダにアイスを入れて食べた時と同じ笑顔を彼女は見せてくれた。
「《…私はユウの…。早く―…――…。…一緒に…》」
「竜の声が好きだってさ」
今まで以上に英語が早くて余計に分からない俺のために、ハルカさんは通訳をしてくれた。
「ありがとう」
宝さんが帰宅してから、あの曲には未だに歌詞が無いということをハルカさんが教えてくれた。
それから1週間後、MAR RE TORREが夜の生放送で2曲演奏するというので俺はテレビの前で待機していた。
マイクスタンドの前に立ち、深呼吸をして、眼帯を外した宝さんが英語で何か話したあとに「starry float」と呟き歌い始める。
「La La La…」
その歌い出しは、あの曲と同じメロディだった。
歌詞が完成していないと言っていたあの歌は、俺を励ますための曲に仕上がっていた。
「親愛なるJEESの帝真竜。私はあなたの歌声が大好き。だからいつかまたあなたの歌声を聴かせて欲しい。この曲が少しでもあなたのパワーになりますように」
曲が終わり、宝さんが俺へのメッセージを言い終わる前に俺の目は涙で溢れていた。
それと同時に『また歌いたい』という感情が止まらなかった。
その日から俺は再び音楽と向き合った。
脳内を巡る曲を書き起こし、歌詞を完成させるのに時間はかからなかった。
マネージャーとバンドメンバーに連絡をし、音源を2曲送り、絶賛してくれた皆と久しぶりに合流して編曲を続けた。
俺の声でその曲を歌ってみると、前よりは衰えるが問題なく歌い続けることが出来た。
ひー兄のための歌声じゃなく、あの子に届けたいという想いが俺を立ち直らせたのだと気付いた。
その1ヶ月後―…
音楽番組の生放送でJEESは新曲をテレビで披露することにした。
ネットでもひー兄が亡くなって活動休止というニュースで騒がれていたため、観客は不安そうな顔でこちらを見ている。
俺は深呼吸をしてマイクを握った。
「今は亡き最愛の兄へ歌います―……élève」
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