26 / 100

偏愛Ⅱ《竜side》4

季節は冬になり、ひー兄が亡くなって1ヶ月半。 JEESは復活し、俺はバンド活動を再開して、学校にも通えるようになった。 「おはよ!竜くん、久しぶり。音楽番組感動したよー!ちゃんと食べれてる?寝れてる?」 廊下で山田先生に声をかけられた。 隣には哀沢先生もいる。 「はい。ハルカさんのおかげで寝れてるし食べれてます」 「あいつ、肉料理ばっかだろ?」 「はい、ほぼ肉です。料理上手ですよねハルカさん」 「肉か甘いもので成り立ってるからな脳ミソ」 「ハルカちゃんのからあげ美味しいよねぇ。俺も大好き」 ハルカさんは多忙なのに、家事代行も頼まず自分で全てこなしていた。 楽をしたいけど、お姉さんの家事を手伝ってきた長年のルーティンで体が動いてしまうらしい。 「あ、そうそう竜くん。学校におじいさんからお手紙届いてたよ。調度渡そうと思ってたの」 山田先生が大きめの封筒を俺に渡す。 中を開けると、そこにはひー兄が生前俺に書いた手紙が入っていた。 この場で読んだらまずいと思い、帰宅してからその手紙を読んだ。 竜へ 元気か?ちゃんと食ってるか?歌ってるか? 俺がこんな体で、お前に心配ばっかかけてごめんな。 正直、俺がいなくなったら竜もすぐ俺のところに来てしまう気がして俺も心配だよ。 なぁ、竜。 きっといつか笑える日が来るから。 俺のこと忘れろとは言わないから。 だからもう少しだけ生きて欲しい。 本当に限界のその時は待ってるから。 だからって早く来るなよ? 実は、お前の知らないところでハルカさんは俺の見舞いに毎日のように来てくれてるんだ。 竜のことが本気で好きで、竜の全てを知りたくて、お前に内緒で来てくれてる。 父さんとお前のことも伝えてある。 ハルカさんはそれを知っても、竜を守りたいと言ってくれた。 だから俺も安心して逝けるよ。 彼を信頼して。あとはハルカさんに任せたから。 じゃあ、またな竜。 ―…久しぶりのひー兄の文字に俺は涙が止まらなかった。 よかった、ハルカさんが今日からあげを作ってる日で。 油の跳ねる音で、俺が泣いてるのがバレなくてよかった。 しばらくして心を落ち着かせた俺は、からあげを揚げているハルカさんに近付いて問いかけた。 「ハルカさん…どうしてソファーで寝るんですか?」 「んー?隣に好きなやつ寝てたら襲っちまうだろ」 好き…なんだ俺のこと。 父とのこと知ってても気持ち悪くないのかな? 好きならどうして襲ってこないんだろう? 俺はハルカさんならお世話になってるし、無理矢理じゃないなら拒まないのに。 翌日、学校で同級生の嵐と雅に相談をしてみた。 「え?好きなのに何で襲ってこないか?」 「うん」 「付き合ってないからじゃない?」 まぁ確かに付き合ってはいないけど… 「でもさ、毎日竜が眠るまで抱きしめててくれるんだよね?俺だったらエリックを襲うなぁ」 自分の執事であるエリックのことを好きな雅が首を傾げながら言った。 「俺も洸弍先輩にそんなことされたら勃つだろうから襲うなぁ」 続いて、最近1学年上の生徒会の先輩と付き合った嵐も同じく首を傾げた。 結局ハルカさんが襲ってこない理由が分からないまま放課後になり、俺は職員室へ向かった。 職員室ではいつものように山田先生とハルカさんが楽しそうに会話をしていた。 「ハルカさん、お待たせ」 「あ、竜終わった?」 「じゃねハルカちゃん。今日がいい誕生日になりますよーに」 山田先生はニヤニヤしながら人差し指でハルカさんが持っている可愛い紙袋をツンツン触った。 ―…誕生日? 「そーデスネ!なるといーデスネ!帰るぞ、竜」 駐車場まで歩くまでの間、先程の会話と渡されたであろうプレゼントの紙袋を見て俺はハルカさんに問いかけた。 「ハルカさん、今日誕生日…なんですか?」 「あぁ」 「ごめんなさい俺知らなくて…ケーキ買って帰りましょう」 ハルカさんは何かを思い出し、片手で口を押さえて言った。 「いや…今日どこの現場でもケーキ食わされたからいいわ。夕飯はちょっとお高めのデリバリーしようぜ」 ハルカさん甘党で有名だし、スタッフさんもケーキたくさん用意してたんだろうなぁ。 そしてハルカさんは駐車場でデリバリーサイトから高そうな肉を注文し、その後車に乗り家に帰った。

ともだちにシェアしよう!