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偏愛Ⅲ≪竜side≫4

俺はベッドに腰掛けて、ハルカさんを見下ろす。 「りゅうー、ただいま」 …こんなにベロベロに酔ったハルカさんて初めてかも。 ニヤニヤしてるの、なんか腹立つな。 「ハルカさん、お水飲む?」 「いい。それより、太もも枕にさして」 そう言ってハルカさんは俺の太ももに頭を乗せ、手で太ももを優しく撫でる。 「気持ちいい。幸せ」 俺はそんなハルカさんの髪の毛を撫でながら言った。 「俺のこと好き?」 「好き」 何を聞いてるんだろう、と自分でも思いながら即答で「好き」と答えてくれたことが嬉しかった。 でも、 その「好き」は、山田先生以上の感情? 「―…一番好き?何番目?」 「順位とかねぇだろ」 「ハルカさん…なんで俺のこと好きになったの?」 山田先生よりも好き? と聞けばいいのに、聞けない。 でも俺は山田先生よりお金も無いし、頭も良くない。 唯一勝てるのは歌が歌えることだけなのに、山田先生以上に自分の良さが分からない。 他に思い当たるのは、体ぐらい―…? 「んー―…声が好きでさ…最初、歌声聞いて衝撃受けて気になって」 でも、こんな汚れてる俺を好きだなんて…おかしな人だ。 「そしたら笑顔天使じゃん。そんなん好きになるだろ。傍にいてくれたらいいなってずっと思ってた」 「でも体は汚れてるよ。父さんに色々されて…自分でも消えたくなるぐらい、汚れてる」 「お前はキレイだよ。体も声も心も。父親とのことは時間かけて忘れさせてやるから」 俺と父のこと知ってて、それでも好きだと言ってくれるなんて。 「ハルカさん…」 「だから早く俺のモンになれよ…俺はお前の全部受け入れて、守り続けるから。ずっと俺の傍に居て欲しい」 俺の太ももを枕にして泥酔しているくせに、とても綺麗な目をして優しい笑顔を俺に向ける。 「愛してるよ、竜」 ―…なに、これ 俺の体は父を満足させるためのもので、 「愛してるよ」は父からの大嫌いな言葉で、 聞くだけで吐きそうになる言葉なのに、 ハルカさんから言われるとまるで別のものみたいに温かくなる。 もっともっと、欲しくなる。 こんな感情知らない。 全部、全部、全部、全部、 ハルカさんで上書きして欲しい。 「ありがとう、ハルカさん…」 俺の涙がハルカさんの顔に触れる頃には、ハルカさんは眠っていた。 翌朝、何度起こしてもハルカさんは起きなかった。 仕事は夕方からって言ってたし、俺はハルカさんを起こさずにバスで学校へ向かった。 今日は迎えにも来れないので、俺は学校帰りに軽く買い出しをしてから帰宅した。 昨日たくさん飲んでたから、鍋にしてあげようと思って買ってきた野菜を大きめに刻む。 変なの。 だって俺、この前この包丁で死のうとしてたのに。 死にたくて、死ねなくて 辛くて、苦しかったのに 死ねるアイテム持って料理してるなんて、笑える。 「ただいまー。お、今日は鍋?いいねー」 「お帰りなさい。いま野菜入れたばっかりだからもう少しかかりますよ。お風呂沸いてます」 「じゃ先に風呂入ってくるわ」 ハルカさんが、くたくたに煮込んだ野菜が好きなのも知ってる。 まだ一緒に暮らして数ヶ月なのに、徐々にハルカさんのことを知れてきた。 「しかも鶏白湯スープ。胃に優しくて最高。チゲだったらきつかった」 「まだ頭痛いんですか?」 「めっちゃくちゃ痛ぇ。ベースの低音も頭に響いたし、宝に怒られた」 「昨日、山田先生も一緒に飲んでたんですね」   いないって言ってたのに…嘘つき。 そんなこと言える立場でも無いのに。 何なんだろ、俺。 「あぁ。マサくん用事無くなったみたいで途中から来た。兄貴と飲み比べ。だからめっちゃ飲んだら二日酔い。負けたし」 大きな口で野菜を食べながらハルカさんは笑ってる。 俺は無意識に、この笑顔に救われてる。 「ハルカさん、昨日帰ってきてから言ったこと覚えてる?」 「好きだ」って即答してくれて、 「愛してる」って言ってくれて、 ―…少しトラウマを消してくれた 「昨日?何か言った?待って思い出す」 …覚えてないの? 「あ、おっぱい見せて?揉ませて?って言った気がする。竜の揉んだ?だからじじいって言われたのか」 ―…それは山田先生。 「いや、何も言ってなかったですよ」 俺はそう言って、自分の食べたものをキッチンへと運んだ。 「何だよ焦った。変なこと言ったのかと思った」 ねぇ、覚えてないの? 俺のこと好きだって即答したの。 愛してるって初めて言ったの。 「あ、そうだ。兄貴に言えって言われたんだけど…竜、無理してここにいるなら前みたいに寮に戻ってもいいからな」 なに言ってるの? 俺が傍にいなくてもいいの? 「そうですか。じゃあたまには寮に戻ろうかな」 引き留めて欲しいなんておかしいのに。 「俺はもちろんいて欲しいけど、決めるのは竜だからな。俺がここにいろって言ったらずっといてくれんの?」 「ノーコメントです」 「小悪魔め」 「俺、お風呂入ってきますね」 こんな汚れた俺を受け入れてくれるって。 死にたいと思ってたのに、ハルカさんとの毎日がすごく心地いいんだよ? 包丁持っても、死なずにハルカさんのために料理して待ってるんだよ? 「愛してる」を覚えてないなんて、どっちが小悪魔だ。

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