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偏愛Ⅲ≪竜side≫7
あの日から、抱かれてもハルカさんに好きだと言われなくなった。
「おやすみ、竜」
ねぇ、好きって言ってよハルカさん。
いつもみたいに好きって。
不安で壊れそうだよ。
どうして言ってくれないの?
俺なにかした?
家事できないから?
俺以外にいい声の人見つけた?
一番好きな人がいる?
やっぱり女の人がいい?
俺はいらなくなる?
俺はまたひとりになるの?
「わーんハルカちゃん、哀沢くんとケンカしたぁ」
「マサくん、俺はそのケンカに入れない。なぜなら兄貴には勝てないから」
哀沢先生と山田先生が別れたら、そしたらハルカさんは山田先生を好きになるの?
俺のこと好きって、愛してるって、冗談だった?
どのくらい本気なの?
「裏切り者ー!」
「仲直りしなよ。どうせマサくんが悪いよ」
「ひどー!」
「おっ!帰るぞ、竜」
ねぇ、好きって言って。
いつもみたいに好きって。
不安で壊れそうだよ。
俺がハルカさんを好きだと言えば、好きだと言ってくれるの?
でも、言ってくれなかったら?
1秒でもハルカさんからの返答が遅れたら、俺の心はもっと不安で不安で壊れる。
もう何もない。
だから聞けない。
だから言って。
「ハルカさん、しよ」
ねぇ、ハルカさん。
俺を求めて。
好きだって、愛してるよって。
お願いだからもう一回言って俺を安心させて。
なんなんだろう、このぐちゃぐちゃな感情。
おかしくなりそう。
「悪ぃ…明日マジで朝早いから今日は」
「―…え?」
初めてハルカさんにセックスを拒まれた。
「…なら寝てていいですから。口でしますね」
やっぱり俺が何かした?
もしかして下手になった?
「竜、いいって…」
「俺の体、好きなだけ使っていいんで」
「お前のことそういう風に見てねぇから」
「どうして?お世話になってるお礼なんだから遠慮しないでください」
ズボンを下げてハルカさんのモノを舐めようとした瞬間、ハルカさんが俺の頭を押さえて行動を止めた。
「いいって!―…なぁ竜、しばらくセックス止めよう」
「え…?」
セックスを…止める?
「最近異様にヤりすぎだし」
「俺、下手でした?だったらもっと上手く…」
「違うよ。こんなことしなくても満たされてるから」
俺以外で満たされてるの?
それとも俺で?
こんな体で満たされてる?
明日仕事が早いからって理由で抱けないような体を?
「ごめんなさい。どんなことされたいか言ってくれれば…俺、覚えますから」
「いいよ。そんなことしなくて」
必要じゃなくなったんですか?
俺は要らないんですか?
「ごめんなさい…もっと…上手くなるから…俺」
「竜…」
―…捨てないで
「俺…これ以外できないから…知らないから…満足させる方法…これしか…」
あぁダメだ。
涙が止まらない。
俺はベットを降りて寝室を出てバルコニーへと向かった。
冬の風は俺の不安と比例して冷たい。
冷たいのに、その冷たさすら感じないほどに俺の心は壊れそうだ。
「竜…」
「ごめんなさい」
「寝よう。風邪引くから」
「ごめんなさい…」
ハルカさんに肩を抱かれ寝室へと戻り、何も言わずに髪の毛を撫でてくれてるその手はとても温かいのに。
俺だけのものじゃない不安が強くて、眠るまで涙が止まらなかった。
「竜」
「―…」
次の日から俺は、ハルカさんを無意識に避けてしまっている。
「やっぱり必要ない」とか
「他に好きな人できた」とか
言われたらどうしようって勝手に妄想して。
だったら話さない方がいいのかなと思ってしまっている。
ハルカさんは、哀沢先生の弟で
MAR RE TORREのベーシスト
22歳
B型
料理が得意
山田先生のことが好きだった
住谷さんとは体だけの関係
俺はそれしか知らない。
―…ハルカさんの過去は知らない。
インターネットでハルカさんを検索すると、色んなことが書かれていた。
・女遊びが激しい
・昔ボーカルをしていたが、女が原因でボーカルを辞め、ベーシストになった。
・傷害事件を起こしたことがある
読むのが嫌になったから、途中からは読んでない。
「竜。今日元気ないんじゃないか?」
同じ事務所の先輩の御崎 さんに声をかけられた。
御崎さんは優しくて、頼りになる兄貴みたいな感じの先輩。
ハルカさん家で飲み会したときも、一緒にいたぐらい仲が良い。
「今日はあんまり寝てなくて…」
表情に出ちゃってるのかな、俺。
ダメだダメだ、気合い入れなきゃ。
「なんかあるなら言え。楽になるかもしれないぞ」
俺の頭をポンポンしながら、御崎さんは優しい言葉をかけてくれた。
本当、良い先輩。
俺が今の事務所に入るキッカケを作ってくれたのも御崎さんのおかげだし、ひー兄みたいで俺は御崎さんののとがすごく好き。
「御崎さんは…ハルカさんを昔から知ってるんでしたっけ?」
「あぁ。俺とハルカはタメだし、あいつが高校でバンドやってた時から知ってるけど?」
じゃあ、御崎さんはハルカさんの過去を知ってるのかもしれない。
真実を知ってるのかもしれない。
「ハルカがどうかしたか?」
知りたいよ、ハルカさんのこと。
だって俺、ハルカさんのこと何も知らないから…
「昔のハルカさんは…」
「竜ー!リハ始めるぞー!」
メンバーに呼ばれて我にかえる。
「ハルカがどうした?」
「あ、なんでもないです!また飲みましょうね!リハ行ってきます」
心臓がバクバクしてる。
知りたい。
けど、
怖い。
何が怖いかなんて分かんないけど。
俺の知らないハルカさんを、俺は受け入れられるのかな…
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