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偏愛Ⅲ≪ハルカside≫2

とある日の夕方。 「やっほー♡」 スーパーで買い出しをして帰宅すると玄関前に真理奈が座っていて、俺は思わず買い物袋を落としてしまった。 俺はそいつを幽霊かのごとく、無視して中に入った。 「お邪魔しまー…」 「す!ん!な!」 俺と一緒に家に入ろうとする幽霊もとい真理奈を止めるが、こいつはニヤリと笑う。  「玄関で騒いでいいの?ここにハルが住んでるってバレたら引っ越ししないとね。フォロワー500万人もいる人気ベーシストだから大変よねぇ」 「―…性格最っ悪」 「褒め言葉♡」 俺は諦めて真理奈を家の中に入れた。 「お前さぁ…自分が人気グラビアアイドルだって自覚あんの?写真とか撮られたくねぇんだけど」 「社長がもみ消してくれるから」 真理奈は中学の同級生で、ロックバンドがすげぇ好きで仲良くなって、中3のとき告白された。 俺はマサくんしか見てなかったから断った。 その後も気まずくなることはなく、高校が離れても中学時代のように仲は良かった。 アスティのライブも見にきたり、宣伝してくれたりもして。 「竜ちゃんと暮らしてるの?付き合ってる?エッチした?」 「そーだよ。訳あって面倒見てんの。まだ俺の片思いだけど―…合意のもと夜は営んでおります」 「ハルずっと竜ちゃんいいって言ってたもんね。嬉しいね。上手くいくといいね」 こいつには昔から結構色んなこと話してきた。 だからもちろん、竜のことが気になってるってことも隠さず話していた。 「というわけで、俺はお前とはもうヤれないから頑張って長く続く彼氏を見つけるんだな」 真理奈と俺は、恋人がいないとき限定のセフレの関係。 基本的に真理奈が彼氏を切らさないから、頻繁にヤることはなかったが。 俺も音楽優先で性欲そこまで無かったし。 「ずるーい!あたしだって竜ちゃん推しなんだからー!みてよこの限定のアクスタ!」 「うわ。可愛いな竜。くれ」 「やーだ」 竜はまだ恋人じゃないけど、竜と暮らしてヤッてる以上は真理奈を抱く理由もねぇし。 ―…早く竜の心が欲しい 「ハルカさん…山田先生のこと好きだったんですか?」 真理奈という名の嵐が去り、夕食の準備をしていると竜に思ってもみない質問をされた。 「何でそれ―…」 マサくんがそんなこと竜に言うわけないし―…あ、あいつか。 「…あぁ真理奈が言ったのか。まぁ…そんな時期もあったな」 俺がマサくんと出会ったのは俺が小4の時だった。 兄貴が中2の時、友達を家に連れてくるなんて珍しいなと思ったのを覚えている。 それから何度もマサくんに会えて、あの明るくて可愛い笑顔が好きだなとずっと思ってた。  兄貴とマサくんがやっと付き合ったのは高2だった。 俺はずっとマサくんから「哀沢くんが好き!諦めない!」っていう気持ちを聞いていたから、二人が結ばれたときは嬉しかった。 でもやっぱり、それでも俺はマサくんが好きで。 二人をぶち壊そうとかそういうのは一切なく、この想いがいつか消えるまではマサくんを好きでいようと思ってた時だった。 「兄貴さ、21のときに一時的に記憶喪失みたいになって。マサくんのこと忘れたんだよ」 大学内での事故だと聞いて、病院に駆けつけた時には最初は俺のことですら忘れていた。 徐々に色々な人を思い出していったが、マサくんのことだけは何ヵ月も忘れていた。 泣きじゃくるマサくんを支えたくて、その時初めて告白をした。 「チャンスだって思ってマサくんに告白したけど玉砕。結局、兄貴の記憶戻ったから、もしマサくんと付き合ってたらぶっ飛ばされてたな。想像しただけで震える」 兄貴を忘れるために逃げるように海外に行こうとしてるマサくんに思いきって告白した。 「ハルカちゃんだけは絶対に選ばない。他の誰かは選んでも。だってハルカちゃんといたら、必ず哀沢くんとまた出会うもん」とフラれ。 玉砕して落ち込んでる俺にセフレ申請をしてきたのが真理奈だった。 もう真理奈は俺のこと好きでもないし、俺とだったら後腐れ無いからと押されてマサくんのこと忘れたくてその申請受け入れて、真理奈を半日抱いてたこともあった。 まぁ…そのあと竜に出会って、俺の長年の初恋は終わったわけだけど。 兄貴の恋人に片思いして、フラレて、友達とセフレになってって―…思い返すと苦い思い出だよなぁ。 「俺のことなんてどうでもいいだろ。さ、食べようぜー」 「いただきます…」 「なぁ竜。俺のことは俺本人に聞けよ?何でも話してやるから。噂話とか当てになんねぇし」 「はい」 別にいくらでも過去なんて話してやるけど。 そもそも、竜は俺に興味あるのだろうか。 毎日のように好き好き言い続けても、好きだなんて回答こねぇしな。 まぁ俺は自分がこの状況でも幸せだから構わないんだけど。

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