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偏愛Ⅲ≪ハルカside≫3
「ハルカさんは山田先生とキスしたことあるんですか?」
ある日、竜を学校に迎えに行った帰りの車内で再び思いもよらない質問がきた。
「え?あー……まぁ…ある、けど」
ある、けど…
あれは正式なキスと言っていいのだろうか。
高校を卒業してから1年ぐらい、俺は兄貴とマサくんが同棲している愛の巣に転がり込んでいた。
その時に兄貴も俺もマサくんも酔っていて、そこでされたキス。
「―…酔ってしたキスってカウントに入んの?」
運転しながら竜に問いかけても、返答が無かった。
「竜?」
聞こえてなかったか?
まぁいっか。
しばらく車を走らせ、マンションの駐車場につくなり、降りずに運転席にいる俺に竜はキスをしてきた。
そして車を降りて、エレベーターの中でもキスをする。
俺は竜の挑発にまんまと乗った。
玄関を開けるなりお互いに荷物を落として玄関で激しいキスをし続け、そのまま寝室へ移動した。
「ハルカさん、もう1回…」
「いやもう2回ヤッただろ?」
玄関でのキスからそのまま寝室へと移動し、気付けば帰宅して2時間が過ぎていた。
俺は2回、竜は最低でも5回はイッてる。
「俺の体、飽きました?だったら他にハルカさんがして欲しいことがあればします」
「いや、飽きてねぇけど…お前、体もたないぞそんなんじゃ」
最近の竜はおかしい。
異様に誘ってくる。
そしてその誘いに乗る俺は単純すぎる。
「俺、ハルカさんにはお世話になってるから…ご奉仕したくて…こんなことしか出来ないから…」
「何回イッたんだよ。5回はイッてる。喘ぎ声で喉やられたらどうすんだ。JEESのボーカルさん」
そう言って俺は竜にキスをしてベッドを降りた。
「今日ハルカさん出かけるんですよね?」
「あぁ。兄貴に呼び出しされて飲みに出かけるけど…一緒に行くか?」
「山田先生もいるの?」
「マサくんは用事あって来ない。兄貴と二人とか気まずいからいて欲しかったけどな」
兄貴と二人で飲みとか、説教以外考えられなくて恐ろしすぎる―…
「俺はテスト前だし、からあげ大量に残ってるからそれ食べて勉強します」
「そっか。じゃあ行ってくる」
PM9:00
行きつけの居酒屋にて、部活終わりの兄貴と合流。
「兄貴がお呼びだしとは、一体なんでございましょーか?」
頼んだ生ビールを俺が半分飲んだところで、兄貴が口を開いた。
「親父が俺たちに会いたいそうだ」
親父―…
「親父?は?…捨てといて今更かよ。つうかあいつ、本当の家族の子供いるだろ?」
俺たちの家庭は複雑で、親父だと思っていた人物にはもう1つの家庭があった。
いつか離婚するから、と二重生活を楽しんでいた親父は結局本来の家庭を取り母親を捨てた。
俺と兄貴と姉貴は、いわゆる愛人の子供。
長いこと母親を洗脳し、「いつか離婚するから」という言葉を信じ、兄貴と俺も産まれた。
結局あいつは本当の家族を選んだ。
残された俺たち兄弟は、そのせいで母親が毒親と化した。
特に姉貴は酷い仕打ちを受け続け、それでも母親からの愛を信じ、自殺未遂をするまでに追い込まれた。
姉貴さえ生まれなければ、自分がこうなることは無かった。
俺を産めば親父と一緒になれると思ったのになれなかった。
「あんたたちのせいだ」と何度も何時間も繰り返して。
俺は昔からあの女を母親と思っていないし、愛情もいらない。
でも姉貴は優しかった頃の母親を知っているから。
だからいつかあの優しかった頃の母親に戻るんじゃないかと期待して、耐えて、ほんの少しでいいからあの女からの愛がほしくて、耐えて、耐えて、耐えて、壊れた。
それを見かねた兄貴が、母親を捨てる決意をする。
俺が高校を卒業すると同時に、兄弟全員で母親との縁を切った。
俺たちにとって“親”という存在は地雷でしかない。
「本当の家族は親父の金目当てで40すぎても働いてないから、老後は俺たちに頼みたいってあいつの秘書から連絡きた」
「ムカつくわぁ。で、兄貴は何て答えたの?」
「俺たちには父親も母親もいないので人違いですよ。もしいたとしても、捨てました。って言うのが精一杯だったな」
「まじで二度と近付くなって気分だわ。あー、明日午後からだし飲も」
そんな会話だけなら、別に電話でも済む話なんだけど。
冷血な兄貴も身勝手な親父に腹が立って、俺と一緒に飲みたいんだなというのが分かった。
「でもま、俺は今人生で絶頂幸せ期だから、この世に生誕させてくれたことだけは感謝するわ」
「えー、なになに、何で幸せなのー?」
俺が5杯目のハイボールを飲み終えた瞬間、背後から知っている声が聞こえた。
「マサくん、用事は?」
「ハルカちゃんと久し振りに飲みたくて急いで終わらせた。何で幸せなの?俺も哀沢くんが恋人で毎日一緒にいれて幸せだけど」
マサくんは中2からずっと兄貴のことが好きで、兄貴に告白しても酷いフラれ方して、それでも諦めきれずに想い続けて結ばれた。
そろそろ付き合って10年になるのに、マサくんの兄貴への愛が衰えることはなく、本当に幸せそうだ。
というか俺からしたら、今ではマサくんが兄貴を想うよりも、兄貴のほうがマサくんを愛してんだよなぁ。
早くプロポーズしろよ。と思いつつ、俺も竜とは中途半端な関係だし何も言えないから酒を飲み続けた。
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