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偏愛Ⅲ≪ハルカside≫7

最近の竜はおかしい。 以前にも増して何度もセックスをしたがるようになった。 「ハルカさん、しよ」 「悪ぃ…明日マジで朝早いから今日は」 「―…え?」 ほぼ毎日。 だがそれは欲求不満からくるものではなく、義務的なもので『しなくてはいけない』と思っているように感じる。 「…なら寝てていいですから。口でしますね」 「竜、いいって…」 「俺の体、好きなだけ使っていいんで」 狂ったように、体を捧げ続ける。 俺はお前が隣にいて笑っててくれるだけで満たされるんだ。 「お前のことそういう風に見てねぇから」 「どうして?お世話になってるお礼なんだから遠慮しないでください」 ―…違う 俺はズボンを下げて俺のモノを舐めようとした竜の頭を押さえて行動を止めた。 「いいって!―…なぁ竜、しばらくセックス止めよう」 「え…?」 「最近異様にヤりすぎだし」 「俺、下手でした?だったらもっと上手く…」 世話してやってるから、抱かせて欲しいわけじゃない。 竜の体に満足してないわけじゃない。 ただ、隣で笑っててくれるだけでいいのに。 そんな辛くて焦ったような顔して。 「違うよ。こんなことしなくても満たされてるから」 「ごめんなさい。どんなことされたいか言ってくれれば…俺、覚えますから」 ―…お前、最近笑ってないだろ? 「いいよ。そんなことしなくて」 「ごめんなさい…もっと…上手くなるから…俺」 「竜…」 気付いて欲しい。 お前は性でしか自分の存在価値を計れないと思ってる。 全然そんなことねぇんだよ。 俺は父親の幻影でも何でもない。 ただ、お前が傍にいてくれるだけでいいんだ。 「俺…これ以外できないから…知らないから…満足させる方法…これしか…」 泣きながら寝室を出て、バルコニーに行った竜の傍へと向かう。 「竜…」 「ごめんなさい」 「寝よう。風邪引くから」 「ごめんなさい…」 こんなに大切にしていても、未だにこいつの父親の呪縛は消えることは無い。 震える竜の背中は小さいのに、壁は明らかに大きすぎて、遠くて、堅い。 大丈夫だ。待ってろ。 必ず俺がその壁ぶっ壊してやるから。 ―…必ず ―…そう思ったのに 「住谷さんがハルカさんのこと好きって知ってて、それで抱くなんてさ…どうかと思う」 ある日、俺が真理奈の名前を出した時、竜の目付きが変わった。 「昔の話だろ。まだ真理奈が俺のこと好きなら抱いてねぇよ。彼氏がいない時限定のセフレで、それ以上でも以下でもない」 「抱いたら好きになるの分かるじゃん…そうやって住谷さんのことも他の女の人みたいに繋ぎ止めてるんでしょ?散々ネットで書かれてるもんね」 ネット? 「ハルカさん…女遊び激しいんですよね?」 「は?」 俺をエゴサーチすると、色々な嘘が書かれていることは知っていた。 それは女遊びだったり、傷害事件だったり、ありもしない情報だった。 ハッキングなどが得意な知り合いに頼んで書き込んだやつを探してもらっているが、未だに見つかってはいない。 「俺のことは俺に聞けって言ったよな?」 ネットの情報なんて真実かどうかも分からないのに。 本人の言うことを信じもせず、鵜呑みにするやつが大嫌いな俺は少し冷静さを失った。 嘘の書き込みのせいで死んだ、死ななくても良かったアイツを思い出す。 「最近、お前が俺を避けてたのも知ってる。何がイヤなんだ?」 「別に何も」 「ネットじゃ散々叩かれてるみたいだけどな、俺は女は真理奈しか抱かねぇ」 女遊びが激しいだの、遊ばれた女性A、嫌だというのにしつこかった女性B…C、D―…お前ら誰?って話。 真理奈以外の女と絡んだこともねぇわ。 そもそも俺はただの音楽バカで、女に興味ねぇし。 「じゃあ住谷さんと付き合えば?」 「…真理奈がイヤなのか?」 「別にイヤだなんて言ってないじゃん!」 なぜ竜がこんなにムキになっているのか分からない。 俺はお前が好きだって伝え続けてきたのに。 1ミリも伝わって無かったのか? 「…嫉妬でもしてんのか?」 「嫉妬なんかするわけないじゃん」 「山田先生を抱けないから俺を抱くの?どうせ俺は先生の代わりでしょ?」 「お前…」 こんなにも伝わっていないことにムカついた。 マサくんの代わり?そんなこと思ったこと1回もねぇよ。 なんでそんな発言でてくんだよ。 「俺だってひー兄がいないからハルカさんのお世話になって、そのお礼としてに抱かれてるだけだから一緒か」 抱かれたくて抱かれてるわけじゃなくて、ただの礼として抱かれているという発言にも腹が立つ。 竜の心を全く変えられていない自分にも。 「女の人が原因で歌うこと辞めたんでしょ?そんな人に好きって言われても困る」 もう止めてくれ。 それ以上言うな。 俺の唯一の地雷を踏まないでくれ。 「俺にはやっぱり、ひー兄しかいない。ひー兄がいれば今のこの状況だって無かった。ハルカさんにお世話になることも、抱かれることも無かった」 俺との日々を否定するような発言は特に―… 「こんなことになるなら…すぐに死ねばよかった…」 その一言が引き金になって、俺の地雷を踏まれ続けた我慢が怒りと変わり爆発した。 「うざってぇな!いい加減にしろ!死んだやつは還ってこねぇよ!」 竜にとって緋禄が全てで、緋禄のために生きていたのを知っているのに。 「緋禄もがっかりしてるだろうな。お前が未だにそんなこと言ってるなんて、呆れて安心も出来ねぇよ」 「…嫌い―…ハルカさんなんて嫌い。大嫌い」 気付いた頃には涙を流し、俺を否定している竜がいた。 「そうかよ…お前の言いたいことは分かった」 地雷を踏まれただけで、こんなにも大人になれない弱い俺。 頭冷やさねぇと無理だ。 今は一緒にいれない。 お互いのためにも、少し離れる。 「出てくわ」 「ハルカさ…」 そう言って俺は、泣いている竜を置いてマンションを後にした。 【to be continued】

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