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偏愛Ⅳ≪ハルカside≫1

『こんなことになるなら…すぐに死ねばよかった…』   あぁ、     俺の行動は1ミリも竜に伝わってなかったのか―… 「マサくんどうしよう…俺、竜に酷いこと…」 「落ち込まないでよハルカちゃん…」 竜との言い合いのあと、俺は気付くと兄貴とマサくんの住むマンション前にいた。 急な来訪に驚いたマサくんが俺を家にあげる。   「なんでてめぇがいんだよハルカ」 が、歓迎していない風呂上がりの黒髪冷血男がここに1名。 その冷血男と同じ血が流れているかと思うと心底複雑な気持ちだが、俺は明るく振る舞ってみせた。 「兄貴ー、しばらく泊めて」 「出てけ」 「まぁまぁ哀沢くん。話を聞いてあげてよ」 プラネットのチョコをマサくんに差し出された俺以上の甘党である兄貴が、それを見て俺の話を聞いてくれた。 愛してやまないチョコレートと、ココアに黒蜜を混ぜて飲む兄貴に全てを話した。 この人がココアに黒蜜を入れる時は、機嫌がいい時だということを俺は熟知している。 兄貴の半渇きの髪の毛から、肩に水滴が落ちたタイミングで口を開く。 「もう諦めろ。帝真はお前のこと嫌いになったんだから」 「もー、哀沢くん…」 「いいか?俺は死んだヤツのことがずっと好きだったから帝真の気持ちがよくわかる」 そう、兄貴はマサくんに告白されても断り続けていたのは愛した男が死んでしまったから。 そいつをずっと引きずっていて、もう二度と恋愛なんかしないと思って過ごしていた。 まぁ、その死んだ相手があの世界的人気モデルの三科雅彦だったってのはマジでびびったけど。 「『うざってぇな』『いい加減にしろ』『死んだやつは還ってこねぇよ』…理数系の俺でも分かる最低な三段活用だ。唯一の理解者にそれ言われたら、俺なら二度とお前の顔見たくねぇな」 「…」 兄貴の言う通りだ。 そのセリフのあとに、更に別の三段活用使った。 竜が緋禄の後を追おうとしていたのを知ってるのに。 「仲直りしようハルカちゃん。竜くんも勢いで言っちゃったんだと思うし。少し離れれば気持ち落ち着くよ」 「1週間後、ちょうどLAで撮影なんだ俺」 「いいじゃん。何か買ってきて仲直りしなよ。少し離れて気持ち落ち着かせられるし」 仲直り、か。 そういや竜、時計欲しいって言ってたな。 ここは奮発して、時計買って土下座してでも謝ろう。 「つぅか、お前はどうなんだよハルカ?」 兄貴が二杯目のココアに角砂糖を混ぜる。 まだ機嫌は悪くない証拠だと気付き、俺は聞き返した。 「何が?」 「いつまで姉貴と母親に囚われてんだって話」 その発言に俺は何も言えなかった。 2つ目の角砂糖を入れると同時に兄貴が再び口を開く。 「足掻けば歌えるんじゃねえの?」 「は?」 「帝真は雨月を失って間もないのに克服してる。でもお前はどうだ?歌えなくてもベースは弾ける。それで満足か?」 こいつ、知ってるくせに。 俺が歌えなくなった理由。 俺の歌声が、姉貴の自殺未遂の残像を思い出させてフラッシュバックすること。 「兄貴に何が…」 「何が分かるかって?何もわかんねぇよ。お前が逃げてる弱いやつってこと以外は」 「哀沢くん…」 「帝真は必死に頑張ってる。お前より若いのにな。色んなもの乗り越えようとしてる。お前より強い。そんな帝真を守るならお前も誠意見せろよ」 悔しかった。 俺だって歌いたくないわけじゃねぇのに。 歌いたくても歌えないこの体が憎くて仕方ねぇのに。 「好きだって気持ちだけで簡単に相手が振り向くと思うなよ?」 それなのに、兄貴に反論出来ずにいる。 「俺はMAR RE TORREのベースのハルカは嫌いじゃない。でもな、アスティの頃の歌って弾いて楽しんでるお前が最高に好きだったよ」 今まで生きてきて兄貴に褒められたことなんて1度も無いのに、兄貴の急なその発言に驚いた。 兄貴は再びココアに黒蜜を混ぜ、飲み干してから言った。 「あとはお前の行動次第だ。誠意見せろよ。やれんだろ?なぁ、アスティのベース&ボーカルのHaRuKaくん?」 ―…俺の、誠意 「寝るわ。1週間経ったら出てけよ」 そう言って兄貴は寝室に向かった。 「…哀沢くん言わないけどさ、本当にハルカちゃんの歌声大好きだったんだよ。お姉さんの自殺未遂を防げてたらハルカちゃん今も歌えてたのにって。気付かなかった自分を責めてたんだ」 知るかよ。 知らねぇよ、んなの。 兄貴のせいじゃねぇだろ。 あの時兄貴は大学通ってて一人暮らししてたんだから。 家にいて姉貴の異変に気付かなかったのは俺だろ。 何されても笑ってる姉貴が限界だったことに気付けなかった俺のせいだろ。 俺を責めろよ、冷血なんだから。 お前のせいで俺、色んな感情が混ざって脳内ぐっちゃぐちゃで今泣きそうになってんだよ。 やってやる。 やってやるよ兄貴。 死ぬ気で本気見せてやるよ。

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