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偏愛Ⅳ≪ハルカside≫2

「悪いな御崎、竜のこと頼んだ」 「大丈夫だよ。つーかお前…竜のこと好きって言ってたけど、まさか手ぇ出してないだろな?JEESはうちの事務所の看板バンドなんだぜ?」 「まぁ、合意の元ヤッてるけど…ケンカした。で、嫌いって言われたからさ。ロスから帰国したら仲直りするわ。それまでよろしく」 俺がロスにいる間、送り迎えは竜の先輩でもある御崎に頼んである。 俺は翌日の昼間、ロスの準備をするために一度だけ荷物取りにマンションに戻った。 そしてタバコを1本吸った。 なんだよ竜。 俺いなくても、ちゃんと家事やってんじゃん。 洗われた食器と、畳まれた洗濯物を見てそう思った。 そしてロスについてから気づく。 「スマホ、空港に忘れた…」 「んもぉ、そんな馬鹿なことあるぅ?空港電話してみるからまってなさい」 やはり忘れていた。 まぁいっか。 何かあればメンバーいるし。 「陽、御崎の連絡先知ってるよな?」 「一応」 ならいいわ。 帰国するとき連絡するからそれまで竜を頼んだ、と陽経由で御崎に連絡をした。 「《…ハルカ、ふざけてるの?》」 リハーサル後にそう言い出したのは、宝だった。 「《何がだよ》」 「《ベースがズレてる。歌いにくい。また二日酔い?ふざけないで》」 「《…悪かった》」 竜と色々あったから、なんて言えない。 俺は別に怒ってるんじゃないんだ。 あいつが緋禄しか見てないのは知ってた。 俺の過去をちょこちょこ調べてたのも知ってた。 それが重なって、怒鳴った俺は大人気なかったと思う。 だから竜に「嫌い」って言われたのも受け入れてる。 あいつを傷つけた。 緋禄の死を受け入れて、元気になってた竜を傷つけたんだ俺は。 死んだやつは還ってこない、って 竜の不安を更に増加させた。 不安定なのに、更に棘を刺した。 最低だ、俺は。 泣き顔を見たいわけじゃないのに、俺の存在が竜を傷つけた。 「何かあったのかハルカ?」 「いや、ごめん。大丈夫。切り替える」 俺らのバンドは海外でツアーをやる。 今日から1週間は、一足先にLAに行ってツアーの下見をしたりリハーサルがある。 竜のことでいっぱいいっぱいになってどうする。 俺はプロだろ。 やるしかねぇんだ。 それでもやっぱり、あいつの泣き顔は頭から離れない。 ぎゅってして、 頭をなでて、 傷つけてごめんな、って 今直ぐにでも言いたい。 だけどさ、 『あとはお前の行動次第だ。誠意見せろよ。やれんだろ?なぁ、アスティのベース&ボーカルのHaRuKaくん?』 あの甘党冷血黒髪メガネの言うことが頭から離れねぇんだよ。 だから予定の仕事をこなしてから、俺にはやらないといけないことがあった。 「あのさ、みんな…頼みがあるんだけど」 俺たちはロスのあと、珍しく1ヶ月オフをもらっている。 俺以外の3人は、昔住んでいた自分達の家があるロスを楽しもうとしていた。 「みんなの1ヶ月…俺にくれないかな」 「どういうことよ?」 「また歌えるようになりたい。だから協力して欲しい」 俺の発言に、そこにいた全員が驚いていた。 カラオケでさえ、自分の声が耳に響くだけで吐き気がして震えるのに。 だからもう、歌うことは諦めたのに ただ、竜は乗り越えた。 ―…だから、俺も 「《私はハルカの歌声も好き!アスティが好き!だから協力したい!》」 「宝…ありがとう」 一番に喜んでくれたのは宝だった。 「でもアンタ、カラオケでさえ吐くのに…」 「ずっと逃げてきたから。このままでいいって。だけどさ、ダメだから。俺、ちゃんと向き合わないと」 必死にやって、やって、やりきって、 それでもダメならもう諦めるしかないと思ってる。 「Okey。覚悟出来てるってわけね?」 俺は深く頷き、みんながオフを利用して俺に協力してくれることになった。 俺は陽経由で御崎に帰国は1ヶ月後だと連絡し、次の日からトラウマを克服することに専念した。

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