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偏愛Ⅳ≪ハルカside≫3

「《ストーップ!ハルカ、無理しないほうがいいんじゃないのぉ?》」 「《いや、ハルカは続ける。そうだろ?》」 「《もちろんだよ》」 まずは宝と一緒に、MAR RE TORREの曲を歌ってみる。 宝の歌声が重なると、俺の声ではない錯覚に陥って共になら歌えた。 これも大きな進歩だった。 そこから宝の音量を下げてもらって、過呼吸が起きたら止める。 それを繰り返した。 いや、大丈夫。俺は。 竜だって乗り越えたんだ。 毎日毎日、吐き気と過呼吸に囚われながら。 徐々に宝無しで歌えるようになってきたが、アスティの曲はまたフラッシュバックするため中断しながら進めていく。 姉貴の自殺未遂の残像に、宝の声が重なる。 何度も、何度も繰り返す。 あぁ、大丈夫かもしれない。 もしかしたら、あのときの曲を聴いても… 「《アンタすごいじゃない…ハルカ》」 ―…ダメだ 姉貴の自殺未遂を発見して、救急車が到着し、そこから救急隊が現場をあとにするまでの20分。 爆音でかかっていた、その時のアスティの曲は4曲。 その時の4曲だけは、何度トライしても歌うことは出来なかった。 見かねたヴァイアさんが止めに入った。 「《もういいわよハルカ。これ以上はアンタおかしくなっちゃう。歌えただけでも充分なのに、アスティの曲まで》」 「《でも…》」 「《ゆっくり克服してけばいいじゃない》」 あの時の曲を克服してないのに、そんな俺が竜に想いを伝えていいのか… 「《ヴァイアー!ひっさしぶりぃー!》」 「《キャー!ひさしぶりぃぃぃ》」 俺が落ち込んでいるのも束の間、野太い声がスタジオに響いた。 なんっだこのプロレスラーみたいなオネェは… 「《ハルカ、アンタのボイストレーナーのコンクエストちゃんよ》」 「《ボイス…トレーナー?》」 「《アンタさぁ…歌うの辞めてからタバコ、お酒…喉痛めてきたでっしょお?超スパルタな親友を呼んだから、1週間で習得しなさいよ》」 いや…つか、待って… この人が教えられるのってラリアットとかじゃねぇの? ボイトレ? 「《待ってヴァイア、この可愛い子…あたしタイプ》」 「《本気でボイトレやらなかったら掘っちゃていいから》」 「《待っ…》」 「《あーら嬉しいわぁ。でもねアタシ、掘りたいし掘られたいの♡だからぁ…掘った後はbabyの上に乗って動くからヨロシクネッ》」 それは何のプロレスの技でございますか!? コンクエストと言う名のプロレスラー…もといボイストレーナーにみっちりと教え込まれることになった。 ボイトレ中、陽と宝は二人でロスで買い物に出かけ、一緒に出かけようとしているヴァイアさんを引き留めて3人で俺のボイトレをした。 「《もっと喉開けオラァ!そんな使いものになんねぇ喉、アタシのマグナムぶちこむぞ!?あぁん?》」 「《腹からだよ、腹から。もっと腹使え!その腹動くまでアタシのでグリグリさせてやろーかぁー?あぁん?》」 「《ハルカぁ♪クソの最上級みたいな歌声で次に歌ってごらんなさい!結腸までゴリッゴリってアタシのマグナムぶちこんで別の声出させるからねぇん♡」 最後の発言デジャヴなんだけど… オネエ界で流行ってんの? そう思いつつ豹変したプロレスラーの恐怖に打ち勝つべく、俺は必死にトレーニングを続けた。 残すところあと1週間で俺らの休暇が終わるころには、俺の喉も仕上がっていた。 「《すげぇ》」 「《コンクエストは最高のボイストレーナーなのよ。ほんっとありがとう》」 俺の歌声に驚いた宝と陽が、嬉しそうに駆け寄る。 お前ら…連日俺がヴァージンを奪われそうになりながら必死にボイトレしていたことを知らねぇよな? ケツにコンクエストの硬いアレをスリスリされた時はもう死を覚悟した。 「《ありがとう…みんな…本当に…》」 「《ねぇ…日本に帰ったらさ、ゲリラライブやらない?》」 ヴァイアさんが提案をした。 「《小さな箱で1000人くらい入るとこ。平日の夜にさ、MAR RE TORREのゲリラライブ。で、アスティ復活を披露しましょうよ》」 「《まじ?》」 宝が目を輝かせて頷く。 「《フラッシュバックしない曲ならいけるんだろ?2、3曲ぐらいやろう。そして復活するなら新曲を作ろう》」 「《は?いや、待って…時間…》」 「《3日あれば出来るでしょ?アタシたちも協力するから!まずは日本のライブハウスに連絡してみるわ》」 なんか…話が急展開になったな。 でもこれはチャンスだ。 竜に俺の想いを伝えるチャンス。 「《ライブハウス確保出来たわよぉ!帰国して1週間後!平日金曜ゲリラライブ!帰国したら告知しましょっ♪まぁ即完売しちゃうだろぉけどん》」 まじかよヴァイアさん。 こうなったら逃げられねぇ。 むしろ進むのみだ! 新曲作り、ライブのセットリスト選曲、リハーサル… 俺たちは、1ヶ月のオフを使いきり帰国した。

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