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偏愛Ⅴ≪ハルカside≫3

社会的制裁を下すにあたってビデオカメラは不要だから直ぐにでも処分していいとマサくんに言われ、俺はそれを破壊した。 ビデオを破壊したものの、竜とは連絡がつかない状態が続いていることに気付いた。 まずはどうにかして話を聞いてもらわないと。 「だからって、俺を使う気か?」 「頼む!兄貴しか頼める奴いないんだよっ!」 「お前に使われるとは…」 マサくんに頼むことも出来るが、竜とケンカした時に「俺は山田先生の代わり?」と言ってたのを思い出したため、兄貴に頼むことにした。 今は竜は学校に行ってるみたいだし、兄貴を使うしか方法がない。 「相談の内容によっては断るつもりだったけどな。生徒が絡んでるなら話は別だ」 普段、俺の話なんて聞いてくれない兄貴が協力をしてくれる。 「…奇跡だ」 「協力しねぇぞ?」 「あっ、嘘!ありがとう兄貴!」 昔から兄貴には勝てない。 勝つ気ねぇけど。 俺の頼みは、ゲリラライブのチケットを竜に渡してもらうこと。 「竜に伝言したら俺に完了報告くれよ兄貴!」 「まぁ、今回だけな」 そう言って、ココアに黒糖を混ぜて飲み始めた。 兄貴がココアに黒糖を混ぜる時は機嫌が悪いor怒っている時。 それを見て、兄貴も竜が御崎達にされた仕打ちに怒りを感じていることが分かった。 こんなに協力的なのは珍しい。 「ただな、ハルカ」 「ん?」 「お前の想い、死んでもいいくらいに伝えろ。誠意を見せろよ俺の弟なら」 俺の、想い? 死んでもいいくらいに―…? やってやるよ兄貴。 「もちろん」 見せてやる。 待ってろよ、竜。 『任務完了』 兄貴から来たショートメール。 絵文字も、『。』すらない。 「兄貴らしい…」 そして俺は真理奈経由で竜の親友である嵐の連絡先を聞いて連絡を入れた。 『了解っす。俺がMAR RE TORREのライブに竜を連れていけばいいんですよね!』 「あぁ頼む。たぶんチケットだけ渡しても来ないと思うから」 『任してください!』 俺は嵐にライブの詳細を伝え、竜を必ず連れてきてもらうように伝えた。 ―ライブ当日 竜はライブにきたのか、それすら分からない。 ただ、いると信じて俺はここにいる。 「みんな…今日は…ありがとう!」 ライブも終盤に差し掛かり、宝の一言に歓声が走る。 そして練習していた流暢な日本語で話し始める。 「"アスティ"って知ってる?」 一部で更に歓声が響く。 「今夜限りの復活!YoU!HaRuKa!よろしく」 何年ぶりだろう。 こうしてライブするのは。 宝が俺にマイクを渡し、観客席に飛び降りる。 警備員が宝をキャッチし、最前列で俺たちのライブを楽しもうとしているみたいだ。 俺はさっきまで宝が歌っていた場所に立ち、1000人を見渡してから口を開いた。 「ところで、アスティ時代からのファンっているの?」 俺のMCが始まる。 予想以上の歓声に驚いた。 ―…なんだこれ、泣きそ 「アスティが復活するのは今日だけで、明日からはまたMAR RE TORREの俺たちに戻るけど…」 この歌を竜に聞かせられればそれでいい。 「今夜、5曲だけ…アスティ時代人気のあった曲と、新曲の2曲を…」 俺なりの想い。 吐いても過呼吸になっても歌いきってやるよ。 なぁ兄貴、それでいいだろ? 死ぬ気で歌うよ。 俺の想い。 全っ部、吐き出してやるよ。 「はははっ。久々で緊張するなぁ…」 深呼吸をしてから、ヴァイアさんのドラムスティックで321の合図が入る。 何年ぶりだろうか。 こうして歌うのは。 満員の客席が盛り上がって、俺の歌声と最高の楽器の音で一体化しているこの感覚。 あぁ、最高だ。 最高に気持ちよすぎる。 1曲目は、いつもライブで1曲目に必ず歌っていた曲。 2曲目は、全身が筋肉痛になるほど観客が跳び跳ねもみくちゃになる曲。 3曲目はアスティといえばこの曲、という定番の曲。 4曲目は新曲。 これらは姉貴を発見して病院に運ばれるまで流れていなかったため、運良く歌うことが出来た。 4曲目を歌い終わって、歓声が止んでから俺は再び話し始めた。 「今日、ゲリラライブをしたのは…俺の本気を見せたい相手がいるからでさ…今の俺の気持ちを伝えたくて。MAR RE TORREが見たくて来てるのに、ごめん」 でもこうでもしないと伝わらないから。 竜、 お前に伝えたい。 伝わって欲しい。 「でも今日だけは、みんなのパワーを俺の勇気にさせて。次が最後の曲。照れるから全部英語だけど、入場したときに渡した歌詞カードあとで見てみて」 聞いてくれ、俺の気持ち。 「『one's whereabouts』」 お前に贈るよ、竜。

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