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偏愛Ⅵ≪竜side≫1
※3頁~6頁まで父竜シーンの性的描写が酷いため、苦手な方は流し読みをおすすめします。
分かっていたのに。
父からは逃げられないって。
日常が幸せすぎて忘れていた。
ハルカさんと一緒に住んで5ヶ月が過ぎた3月下旬、父から大量の着信が入っているのに気が付いた。
「竜どうした?」
スタジオで収録が終わり、楽屋に迎えに来たハルカさんが俺の顔を覗き込む。
その時の俺の驚きと不安のまじった顔を見て、ハルカさんが異変に気付いた。
「いや、うん…」
ひー兄が亡くなった頃からは父からの連絡は全くなかった。
だから俺への執着心が無くなったのかと思っていた。
だけど、
『どうしたんだい竜?寮にもしばらくいないそうだね?』
留守電のメッセージを聞いて、久しぶりに聞いた父の声に凍りつきそうになった。
―…俺が寮にいないことがバレている
「竜…大丈夫か?」
大手製薬会社の幹部であり薬品開発もしている父は、離婚後に俺を犯すようになった。
苦痛で仕方なかった。
だからMY学園に編入したいと言った。
母もいないし、俺を犯すために家政婦も雇えない父は、寮生活を許してくれた。
ただし、春休み、夏休み、冬休みの長期休みだけは予定がなければ実家に戻ることと、父から連絡がきたら必ず返すことが条件だった。
だからなるべくバンドのツアーを春休み、夏休み、冬休みに組んでもらって実家に帰らない口実を作っていた。
今年の冬休みは父は研究で帰れないと言っていたから帰らずに済んだ。
父も俺がひー兄を好きだったことを知っているからか執拗に連絡はしてこなかった。
俺は慌てて「バンド活動が忙しくてしばらく寮には帰ってなかったんだ」とメッセージを送った。
すぐに既読になった。
「大丈夫か?誰から?」
「…父さん」
ハルカさんは知ってる。
俺が父に犯されていたこと。
「ハルカさん…俺もしかしたらハルカさんの傍にいられなくなるかもしれない。父さんが許さないと思う」
返信を忘れていたわけじゃない。
でも長年父と過ごした俺には分かる。
父は何かを知っていそうだ…
「竜にとって父親は大切な人なのか?」
「ううん…出来れば二度と会いたくない人。でも逆らえないんだ。不思議だよね…」
「なら、捨てちまえよ」
捨てる?
そんな発想したことなかった。
「まぁ…親を捨てるのは勇気がいるけどな」
「父さんの前に立つと足がすくむぐらい怖い…抵抗したいのに体が言うこときかないんだ」
「分かる。俺も母親がそうだった。でも俺たち兄弟は姉貴が一番だったから母親を捨てる決意をしたんだ。姉貴を失いたくなかったから」
ハルカさんが親と縁を切ったっていうのは最近教えてもらった。
お姉さんに対して酷く心理的虐待を繰り返していたって。
ハルカさんが18の時に、兄弟全員で親を捨てて解放されたって。
捨てるって…そんなに簡単に出来るのかな?
「捨てちまえば案外そのあとは楽で軽くなるぞ」
「できるかな…」
「怖いよな。大丈夫。俺がいるから」
「うん…」
仕事が終わりハルカさんと一緒に帰ろうとスタジオを出ると、見覚えのある車とこちらを見ている人物に気が付いた。
「―…っ!」
「竜。久しぶり」
「…父さん…」
父だ…
父は笑顔でこちらに近づいてきた。
「新薬の開発がやっと終わって時間が空いてね。マネージャーさんに聞いたらここだって言うから」
「…そう、なんだ」
久しぶりに聞くこの声。
怖い。
顔を上げられない。
「もう春休みだろう?バンドも1週間オフと聞いているよ。さぁ久しぶりに家に帰ろう。1週間一緒にいれるね。荷物を取りに寮に行こうか」
ずっと顔を上げられずに、何て言葉を発すればいいか分からなかった。
独占欲の強い父だから、きっともうハルカさんと一緒にいられないかもしれない。
俺は俯いたまま無言の時間が過ぎていく。
「荷物は俺の家にあります」
ずっと無言のまま立ち尽くす俺を見て、ハルカさんが父に言った。
「どうして君の家にあるの?」って聞くのかな…
お願いだからハルカさんには何もしないで欲しい。
「…そうか。世話になったね。君の家まで送っていくよ。荷物を取りに行ったら家に戻ろう」
「…はい」
二人で父の車に乗り込み、ハルカさんのマンションへと向かう。
車内で俺は恐怖で何も話せなかった。
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