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偏愛Ⅵ≪竜side≫2
ハルカさんが自分の家を父に指示して、しばらくするとマンションについた。
「家に上がりますか?」
「上がる必要があるかな?さっさと全ての荷物をまとめてすぐに戻りなさい」
ハルカさんの目を見ずに圧をかける父。
怖い。
怖い。
「じゃあ荷物を取ってきます」
俺とハルカさんは車を降りて、部屋に向かった。
早く荷物をまとめて戻らないと。
時間が遅いと絶対何か言われる。
「竜…大丈夫か?」
俺は部屋につくなり夢中で自分の荷物をまとめた。
「もっと持っていかないと…」
父は全ての荷物だと言っていた。
俺の服は全て持っていかないと…
「竜」
「まだあるよね…俺の服…」
ハルカさんの言葉も耳に入らないぐらいに、父に言われた通り全ての荷物をまとめようとした。
異様なぐらい焦っている俺を見て、ハルカさんが俺の手を止めた。
「竜、落ち着け」
手の震えがハルカさんに伝わってしまったかな。
「早く戻らないと…」
ハルカさんの顔を見ると涙が出そう。
もう一緒にいられないのかな。
これが最後になるのかな。
不安そうな顔を見てハルカさんは俺を抱き締めた。
そして俺の顔を触り、優しくキスをしてくれた。
本当はこのままずっと一緒にいたいよ。
でも父が何をするか分からない。
ハルカさんに迷惑かけたくない。
「必ず迎えに行くから」
「うん…待ってる」
俺が壊れる前に…
父に洗脳される前に…
ハルカさんは来てくれるかな…
ハルカさんと俺は大量の荷物を持って父の車に戻った。
それをトランクに入れて、俺は車に乗ってハルカさんと別れた。
車内では父が他愛ない会話をしてきた。
この1週間何をして過ごそうかとか。
俺は会話が出来なかった。
「着いたよ」
またこの場所で始まってしまう恐怖で鼓動が速くなる。
「竜、夕飯は食べたのかい?」
「いや、まだ…」
「僕もまだなんだ。冷蔵庫に家政婦が作ったものがあるかもしれない」
父は今まで見せたことが無いような、とても優しい目をしていた。
もしかして、何か変わったのかな…?
俺は少しだけ安心して冷蔵庫を開けた。
「あー、何も無いけど……ご飯と卵とハムはあるから…簡単なオムライス作ろうか?」
「竜の手料理?いいねぇ。お願いしようかな」
あ…昔のまだ優しいときの父だ。
家族全員が仲良かった頃の、あのときと同じ。
「出来たよ」
「ありがとう。いただきます。うん、美味しいよ竜」
父が一口オムライスを食べて美味しいと言ってくれたことに安堵した俺は、対面に座って食べることにした。
「よかっ―…」
その瞬間、父は目の前でケチャップを握りつぶし、オムライスの上に全てのケチャップを出しきったあと口を開いた。
「僕は竜に料理をさせなかった。それなのに包丁の使い方、手際の良さ、レシピを見ずに作るなんてすごいなぁ。誰に教わったんだい?」
そういって笑いながら食べかけのオムライスをテーブルから払いのけた。
全て床に落ち、皿が割れる音がした時には父はいつもの目をしていた。
そして俺の手を両手で触りながら言う。
「この綺麗な手に油が跳ねたら?包丁で傷ついたら?僕は耐えられないよ、竜」
そしてそのまま、父に手を引かれてリビングを出た。
いやだ。
いやだ。
今日はどの部屋?
俺の?母さんの?父の?
ひー兄が使っていた部屋に連れ込まれる。
この部屋は嫌だ。
一番酷くされる場所であり、ひー兄が父さんに殴られたりしていた部屋。
あの頃がフラッシュバックする。
この部屋に入ると体が震える。
抵抗という言葉すら出てこなくなる。
父は俺の手を掴んだままベッドに座りこみ俺を見上げて言った。
「先程の彼は恋人かい?」
ハルカさんのことを探ってきた。
ハルカさんには迷惑かけたくない。
「違うよ。学校の先生の弟さんだから…」
咄嗟に嘘をついた。
しかし父は笑いながら、ベッドの上に大量にばら蒔いて置いてある書類を見ながら言った。
「へぇ…僕に嘘がつけるようになったんだねぇ」
それは俺とハルカさんの写真や報告書らしきものだった。
もうバレている…
どうしよう。
どうしよう。
「脱ぎなさい、竜」
…脱ぎたくない。
何をされるか想像つくから。
俺の体はもうハルカさんのもの。
俺は父から目を反らしての言葉を無視した。
すると父が俺の服を脱がし始めて口を開く。
「この1ヶ月身辺調査を依頼して探ったけど、毎日楽しそうにあの男の家に帰るなんてまるで恋人同士に思えるけどなぁ」
怖い。
やっぱりハルカさんとのことバレている。
「舌を出しなさい」
俺は口を開けずに父を見つめた。
この体はハルカさんのものだから。
だから父を受け入れたくない。
そう思ったのに、
「アイザワハルカくん…ねぇ。認めないよ僕は。父親に本当の家庭があるなんて。左腕にタトゥーが入っているようなろくでもない男なんて」
何も知らないくせに。
ハルカさんのこと。
じゃあ実の息子を中学時代から無理矢理レイプする父親は、もっとろくでもないよね?
言いたいのに、言えない。
「さぁて…このハルカくん、どうしてくれようかなぁ…」
父がハルカさんのことも全て調べていて、何かしてしまうんじゃないかと悟った俺は舌を差し出した。
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