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偏愛Ⅵ≪竜side≫7
イカされる寸前だったのと媚薬のせいもあり体が熱い。
「はぁ…はぁ…」
洗面所で顔を洗って眠気を覚まし、口をゆすいで口内から父の感触を消してから父の部屋へ向かった。
父の部屋に侵入すると、俺とのDVDがある棚には鍵がかけられていた。
前に鍵を探している時に父に見つかって、そのままこの部屋で酷く犯されてからはこの部屋に近付くことすら辞めていた。
だから本当は怖かった。
あのときの事がフラッシュバックする。
でも勇気を出さなきゃ。
緊張で呼吸が速くなる。
鍵の場所なんて知らない。
でも時間がない。
隙間から鍵付近を変形させ壊すために父の工具セットを使ってこじ開けようとした。
すると警報音が鳴った。
まずい、棚にセキュリティをかけていたんだ。
父が戻ってきてしまう。
これが見つかったら俺はもう二度と逃げられない気がする。
棚は壊れていない。
どうしよう。
落ち着け、頭を回転させるんだ。
警報が鳴る中、俺は撮影しているビデオカメラを思い出した。
昨日も、一昨日も撮影していた…さっきも…
俺はさっきまでいた部屋に戻り、ビデオカメラが無いか確認した。
「あった」
急な呼び出しだったから仕舞わずに出掛けたんだ。
出なくちゃ。家から。
早くしないと父が戻ってきてしまう。
ビデオカメラを持ち、歩こうとしたが蜂蜜のボトルを目にした途端、足が震えて歩き出せなくなった。
先程まで行われていた行為を思い返すと同時に、昨日や一昨日の出来事を思い出すとその場に座り込んで立てなくなった。
―…失敗したら?
俺だけじゃなくて、ハルカさんにも何かするかもしれない。
もう二度と会えなくなるかもしれない。
もっと酷くされるかもしれない。
「はぁ…はぁ……い…お願い…動いて…」
会社までは車で片道20分ほど。
警報に気付いて戻ってくるとしたらもう時間が無いのに…
「動けっ!…動け!動けっ!」
俺は何度も足を叩いた。
お願いだから―…
その時ふと、ハルカさんの笑顔を思い出した。
「会いたんだろ、ハルカさんに…!動けっ!」
―…今やらないでどうするんだよっ!
ようやく足に力が入り動いた俺は、急いで玄関へと向かった。
玄関の鍵を開けて外に出ようとすると、人影があった。
父だ。
捕まる前に走らないと。
俺は靴も履かずに走り出した。
すると、腕を捕まれた。
「離してっ!!」
ビデオカメラが地面に落ちる。
「竜!!」
呼ばれた声は父じゃなかった。
恐る恐る顔を上げて腕を掴んだ人物に目をやると、知っている顔だった。
「…ハルカさん!」
「竜、大丈夫か!?」
ハルカさん?
俺の家を知ってた?
「どうしてここが…」
会いたかった。
会いたかったよ。
「…っ、ハルカさん!」
俺の目からは涙がこぼれていた。
本当に助けに来てくれた。
無理だと思ったのに。
「遅くなって悪かったな。迎えにきた」
「会いたかった。ハルカさん…」
震える俺を抱き締めるハルカさん。
温かい。落ち着く。
「竜…いけない子だなぁ」
ふと聞き覚えのある声がした。
父が戻ってきた。
「父さん…」
鼓動が早くなる。
怖い。
連れ戻される。
もっと酷くされる。
立っているのがやっと。
でも勇気を出さないと。
「父さん…俺、この映像を警察に提出するよ」
「そんなことしたら、JEESの竜が変な目で見られるよ?仲間に迷惑がかかるだろう?返しなさい」
怖い。
体が勝手にビデオカメラを返してしまいそうになる。
でも、ハルカさんが傍にいて俺の手を握ってくれてるから勇気を出せる。
俺はハルカさんとずっと一緒にいたい。
だから、怖がるな。
勇気を出せ。
「むしろ大手製薬会社の幹部が息子を長年レイプしてたなんて、父さんの方がヤバいんじゃない?」
俺が言い返したことに父は驚いていた。
俺は今まで反発したことなかったから。
勇気を出すんだ。
「ずっとあなたが嫌いだった。憎かった。犯されるのが嫌だった。だからこの家から出たかった」
「いや…何を言っているんだ?竜だっていつも気持ち良さそうに受け入れてたじゃないか」
「縛ったり、薬を使って無理やりしてたのに?俺はずっと我慢してたよ。嫌だった。気持ち悪かった。消えて無くなりたかった」
俺の反論に怯む父に、俺は容赦なく続けた。
「だから…あなたがひー兄と母さんに酷いことをしてから…俺をレイプし始めた時から…あなたを父親だと思ったことは無いよ」
「どうした竜?一度家に戻って頭を冷やそう」
「死んでしまいたいぐらい辛かった時、傍にいてくれたのはハルカさんだった。だから俺は生きていたいと思えるようになった」
声が震える。
足も震える。
でも俺はもう父の呪縛から解放されたい。
「あなたがいなければ俺はハルカさんに出会えなかった。ひー兄の弟になれなかった。それだけは感謝しています」
俺は父を捨てる。
「でも本当にそれだけです」
父の目を見て、涙を流しながら自分の気持ちをぶつけた。
緊張と今までの苦しさのせいでちゃんと声も出ない。
でも全部ぶつけるんだ。
「あなたの息子はいなかったと思ってください。俺に父親はいません」
俺にはハルカさんがついてる。
俺は…
「俺は、ハルカさんと生きていきます」
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