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偏愛Ⅵ≪竜side≫8

「ふざけるな!竜!」 怒った父は俺に近づき、ぶたれそうになって目を閉じた。 目をそっと開けると、ハルカさんが父の腕を掴んでいた。 「もう手遅れですよ。竜の中からあなたという人物は消されています」 「放しなさいっ…!」 ハルカさんは掴んでいる手の力を更に強くした。 「竜は俺が守り続けます」 「ふざけるなよ…貴様ごときが竜と一緒になることなんて許さない!」 父は物凄い形相でハルカさんを怒鳴った。 「竜は僕の物だ!ずっと愛し続けて心も体も愛して癒してあげるんだ!竜には僕が必要なんだ!さぁ竜、こっちに来るんだ!」 近所の目も忘れて、父は大声で叫んだ。 ハルカさんはため息をついて、父の手を放し、自分のポケットから何かを取り出して見せた。 「残念な親だな…。今までの会話録音してるから。警察に駆け込んで、家のパソコンのデータや残りのDVD見つかったらヤバいよ」 そう言ってボイスレコーダーを父に見せた。 父はハッと我に返り、ハルカさんに怯んでいた。 「行くぞ、竜」 力の抜けている父の腕を振り払って、俺の手を引いて歩きだした。 父は追いかけてくることもなく、呆然と立ち尽くしていた。 歩き出した先に、ハルカさんの車じゃない車が停まっていた。   ハルカさんが運転席の窓を叩いた。 「お待たせ」 「長ぇよ」 「あ…哀沢先生…山田先生も」 車の窓が下がり、運転席に哀沢先生と助手席に山田先生が乗っていた。 「竜くーん」 「お疲れ様。帝真。乗れ」 「はい」 ハルカさんと俺は言われた通り車に乗った。 ハルカさんは後部座席から運転席に身を乗り出して哀沢先生に言った。 「うちまで」 「うぜぇ。俺を足に使うとは。高いからな」 そう言うと、車を出した。 「ハルカさんどうしてうちが分かったの?」 「いつか必ずこういう時が来ると思ってた。だから常にGPSとボイスレコーダーは持ち歩いてた。竜の荷物を取りに戻ったあと、トランクに荷物入れる時にこっそり取り付けたんだ」 本当に俺を助けようとしてくれたんだ。 迎えに来てくれるつもりだったんだ。 「で、アイツの車が移動してどこかに出かけるのをずっと待ってた」 「夜からずっとうちに来てうざかったんだよな」 「なーに言ってんの哀沢くん。真剣に相談乗ってたくせにさぁ」 先生達も俺を助けようと協力してくれたんだ。 俺は一人じゃないんだ。 嬉しくて泣きそう… 「竜くんは学費も卒業まで払ってるし、芸能枠だから今まで通り自由な感じで退学にはならないって理事長が言ってたから大丈夫だよ」 「山田先生…ありがとうございます」 ハルカさんが俺の顔を胸によせて優しく手を握ってくれた。 しばらく走ってから、ハルカさんのマンションについた。 「サンキュー兄貴、マサくん。今度飲みおごるから」 ハルカさんが先に車を降りた。 「ありがとうございました」 「帝真」 俺も続いて車を降りようとしたとき、哀沢先生に声をかけられた。 「ハルカのこと頼んだ。あんなやつでも、大切な人を全力で守る力はあるから安心していい…と思う」 「思うって何だよー!言い切ってあげなよ相変わらずだな哀沢くんはー」 「はい。俺もハルカさんのこと守ります」 「頼もしいな」 「ありがとうございました。また学校で」 「じゃあねー」 俺は先生達に挨拶をして車を降りた。 そして二人でハルカさんの部屋へ向かった。 部屋に入った瞬間、俺は緊張が解けて玄関で腰を抜かした。 震える体をハルカさんが優しく抱きしめてくれた。 「頑張ったな、竜」 「ハルカさん…」 目の前にハルカさんがいる。 嘘みたいだ。 無事に帰ってこれたんだ。 「ハルカさん…お願い…今すぐ抱いて…お願い」 ハルカさんが俺の顔を見つめた瞬間、俺はハルカさんの首に両手を回してキスをした。 あぁ。落ち着く。 このキスで全部、全部、上書きして。 「は…ん…」 ハルカさんは無言で俺のキスを受け入れてくれた。 舌を絡めて何分もキスをして。 あ、だめだ。俺。 早くハルカさんと繋がりたい。 体が疼く。 さっき父に途中までされたのと、薬が回ってきたんだ。 「早く…ハルカさんが欲しいっ…」

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