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拝啓、君へ《竜side》

―とある日の放課後 「あれ?竜くんハルカちゃんは?」 「撮影が押してて少し遅れるそうです」 俺はいつものようにハルカさんの迎えを応接室で待っていると、山田先生が入ってきた。 「じゃーお話ししよう!哀沢くんも一緒に!」 「俺は部活…」 そしてバスケ部の顧問である哀沢先生を引っ張って俺の近くへと連れてくる。 哀沢先生は仕方なく応接室でジャージに着替えることにしていた。 「哀沢くんはアスティの曲でどれが一番好きー?」 「…ねぇな」 「ひどーい」 相変わらずな二人の仲良しぶりを見て、俺は笑わずにはいられなかった。 俺はどの曲がいいかなと考えていた時、哀沢先生がふと口を開く。 「知ってるか竜?ハルカの声が最高に共鳴するのはロックでもポップスでもない。バラードだ」 哀沢先生の意外な発言に俺は驚いた。 アスティは…ハルカさんはバラードを歌わない。 どんな切ない歌詞だったとしてもロックな曲調にして歌いあげる。 「哀沢くん、ハルカちゃんのバラード聴いたことあるのー?」 「あいつが17のときにな…『初めてバラード作ったから聴け。兄貴の前で歌えたらどこでも歌えると思う』って言って歌い始めたんだ」 確かにハルカさんの声は優しくて強くて、でもどこか切なくてとても綺麗な声をしている。 だからバラードが似合うっていうのも納得だ。 「まぁ、途中で恥ずかしくなって2番のBメロで止めてたけどな。恥ずかしいからもう二度と歌わないって逃げてった」 「えー!羨ましー!歌ってほしー!」 ハルカさんのバラード…俺も聴きたい。 絶対に心地良いんだろうな… 「ハルカさんのバラード聴きたい」 「What?」 夕飯の準備中、餃子を包みながら呟いた俺の言葉に驚くハルカさん。 俺の旦那様は、麻婆茄子を作りながら思わず英語で返してきた。 「だって哀沢先生には歌ったって聞いた…」 「兄貴め…俺の黒歴史を竜にベラベラと……恥ずかしいから二度とバラードは歌いませんっ!」 そう言って出来立ての麻婆茄子をテーブルへ運んで逃げてしまった。 いつか聴けたらいいなぁと思いながら、俺は餃子を焼き始めた。

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