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拝啓、君へ《ハルカside》
緋禄から渡されたものを、未だに形にせずに持ち続けていた。
―2年前の夏
「ハルカさん、俺…今の気持ちを書いてみました」
緋禄は少し細くなった体を起こし、俺に1枚の紙を渡す。
手紙ではなく、まるで詩のように列なった文字が書かれていた。
「…詩?」
「その詩をいつかハルカさんが歌ってくれませんか?」
「俺は…歌は歌えねぇんだ…」
まだトラウマを克服していなかった俺は、緋禄の願いを叶えてやることは出来ない。
「残念。ハルカさんの声、凄くいい声だから…絶対竜に響くと思ったんだけどな。それはハルカさん以外に歌って欲しくないからお蔵入りかな」
そう笑いながら緋禄は優しい顔で俺を見つめた。
「俺がいなくなったことを理解して、竜がそれを乗り越えた時に…いつかハルカさんの歌声が聴けたらいいな」
「悪いな。俺の歌は叶えてやれない。でも竜は守るよ」
そう会話をして、ずっと持っていた緋禄からの詩。
結婚して、お互いトラウマ克服した時、ふと緋禄の詩を読み返した。
何度考えても、この曲はバラードしか考えられない自分がいた。
バラードなんて兄貴の前で軽く歌ったっきり。
恥ずかしくて歌うことはないと思っていた。
けど、この曲は俺が歌いたい。
竜に届けたい。
―届けなきゃいけない
「竜…これ」
花を供えて、線香をあげたあと、俺は緋禄からの詩を竜に渡す。
説明をしなくても緋禄の字であることを竜は直ぐに理解した。
「これ…ひー兄の…字?」
「生前預かってたんだ。竜が緋禄の死を乗り越えた時に、いつかその詩を歌にして欲しいって」
俺はここ3ヶ月、竜に内緒でずっとこの曲作りをしていた。
早ければ1日で曲を完成させられるのに、緋禄の想いを乗せて、更にバラードで作るのは凄く大変だった。
「その詩はどうしてもバラードで作りたくてな。俺のキャラじゃねぇんだけど、緋禄と一緒に聴いてくれるか?」
そして作ってきた曲をウォークマンで流し、アカペラで緋禄の想いを歌った。
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