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拝啓、君へ《ハルカside》2
『拝啓、君へ』
拝啓、君へ
僕の声が消えたかい?
でも泣かないで
瞳を閉じれば僕の笑い声
思い出せるはずだよ
拝啓、君へ
僕の姿が消えたかい?
でも泣かないで
瞳を閉じれば僕の思い出が
溢れてくるはずだよ
思い出の中の僕は
たくさん君を愛した僕
君に愛された僕
幸せだった僕と君
でももう傍にいられないから
この詩を贈るよ
形がなくても僕は傍にいる
さぁ目を閉じて消えた僕を探して
風に生まれ変わって君を撫でるから
空に生まれ変わって君を見下ろすから
太陽に生まれ変わって君を温めるから
月に生まれ変わって君を照らすから
その笑顔が好きだから
その声が好きだから
だからゆっくり歩いて
形がなくても僕は傍にいる
さぁ目を閉じて消えた僕を探して
拝啓、君へ
僕のことを感じれたかい?
風が空が太陽が月が
君を愛してる
僕が君を愛してる
追伸、君へ
来世も愛してる
僕の大切な君へ贈る詩
「こんな…の…泣く……ありがとう…ハルカさん。ひー兄も…ありがとう…俺、幸せだよ」
「これが歌えたのは、俺のトラウマを克服してくれた竜のおかげだからな。俺の方こそありがとう」
俺は感動して泣いている嫁を優しく抱きしめて、涙が落ち着いてから竜の祖父母の家へと向かった。
「いらっしゃい二人とも」
「ご無沙汰してますおじい様、おばあ様」
「早かったわね。まだお昼ご飯の準備が途中で…」
予定よりも1時間ほど早く着いてしまったので、昼食の準備をしていたおばあ様が焦った表情をしていた。
「俺が手伝うよ。おばあちゃんの料理美味しいからレシピも知りたいし」
そう言って竜はおばあ様と一緒にキッチンで料理を作り始めた。
おじい様に用意された席に座り、俺たちは緑茶を飲みながらそんな二人を見ていた。
「包丁すら使えなかった竜が料理をするなんて。ハルカさんのおかげですね」
「そうですね。最初は米も炊けなかったのに、竜の餃子はどこの店より美味いですよ」
「へぇ...それは凄い」
料理をする二人を見てしばらくしてから、俺は今後の予定をおじい様に話し始めた。
「色々と考えていたんですが、いつか…そう遠くない未来、竜と海外に移住するつもりです」
「海外か…寂しくなるけど、竜を守る為だね。ありがとう」
「年に数回は日本に帰国して、必ずお二人と緋禄に会いにきます」
俺がそう言うと、おじい様は緑茶を注ぎながら少し悲しい顔をして話し始める。
「竜があんなに辛い思いをしていたのを知らなかった。祖父母失格だ。祖父母と名乗っていいのかも分からない…」
悔しそうな泣きそうな表情。
二人が悪いわけじゃない。
悪いのは全部あの父親だ。
「今でこそ竜は私達に会いに来てくれるが、以前はほとんど会いには来てくれなかったんだ。助けを求めてくれても良かったのに..力不足で不甲斐ないよ」
誰も自分を責めなくていいんだ。
だから俺は事実を伝えることにした。
「それは勘違いですよ。あの父親は何をするか分からないから、お二人に危害が及ばないように竜はわざと会わないようにしていたんです」
あの外面だけはいい狂ってる父親のことだから、竜はずっと我慢してたんだ。
「本当はお二人が大好きで、会いたくてたまらなかったと言ってましたよ。だから今、怯えることなくこんなに会えて嬉しいと」
俺が事実を伝えると、おじい様は耐えきれず涙を流していた。
「あんなことをされていたのに、私達を守るために…耐えていたなんて…」
「お二人がいなければ、竜は緋禄に出会えなかった。俺も竜と出会えなかった。だから感謝するのは俺達の方です。ありがとうございます」
俺たちが海外に行ってからも、竜の祖父母にあの父親からの危害が及ばないかの監視はマサくんにお願いしてある。
だからこれからは何にも怯えることなく、堂々としていいんだ。
「竜の歌声や行動はこれからたくさんの人を救い、希望となります。俺は旦那として、音楽仲間として竜をサポートし続けます」
「竜を頼みます、ハルカさん」
「もちろんです」
しばらくすると、竜とおばあ様が完成した料理をテーブルへ運んできた。
竜はこの異様な空間に気がついた。
「おじいちゃん、泣いてる?どうして?」
「竜が料理していることに感動して泣いてしまったよ」
「えー!そうなの?それならいくらでも作るよ。今度餃子持ってくるね!」
とっさに可愛い嘘をつくおじい様。
そんな嘘に笑顔で竜は答える。
そして、おばあ様が予想もしていない発言をする。
「そうそうハルカさん、竜が料理をしながらハルカさんのバラード感動したって言ってたわ。私達にも聴かせてくださる?」
「What?」
やべ…
驚きすぎて思わず英語が…
「ひー兄の書いたメッセージを歌にしてくれたんだよ」
きんぴらごぼうを並べながら、竜は嬉しそうに先程のバラードについて語り始めた。
このままの流れだと俺はおじい様方の前でバラードを歌う羽目になると思い、席を立った。
「えっと!あの!俺も料理を運ぶの手伝いますっ。あー、あと庭の草刈りもしちゃいましょうか」
「あー!ハルカさん逃げたぁ!」
「竜、お前あとで覚えてろよっ!!」
結局、
たらふく昼飯を食ったあとに、食後の運動として草刈りをしてから緋禄の詩を歌った。
あぁもう、こんな恥ずかしいことはねぇよ…
今の俺なら兄貴の前でさえバラード完唱できるわ。
「ひー兄、誕生日おめでとう」
緋禄の仏壇を前にして、皆でケーキを食べて、笑顔が溢れた日になった。
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