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第5話 王子様の誓いのキス①
しかし、湯船に浸かってグレンシアと並んでいるのは不思議だ。ゲームのキャラ、しかもエロゲーの脇役王子と風呂に入るって何をどうしたらそうなるんだよ?
「それにしても、直哉さんはなぜあんな場所で武器も持たずに……お散歩を?」
なぜ武器も持たずに冒険していたんですか? は、ちょっとおかしいもんね! なぜ何も持たずに旅をしていたんですか? も、謎過ぎて訊きにくい。お散歩は最大限オブラートに包んでくれたんだろう。
「俺は遠くから来たんだが、この辺の土地になれていなくてな。ゴブリンに襲われると思わなかったんだ」
「平和な土地からいらしたんですね」
そんな平和な場所がこの世界に存在するのかは正直、わからないんだよな。グレンシアは突っ込んで訊いてはいけないのかと思って、話しを合わせてくれているだけかもしれない。
「そんな平和な土地からいらしたのにゴブリンと戦うなんて、とても勇気のいる事です。改めて感謝申し上げます」
「いや、先に助けてくれたのはグレンシアさんだし、俺は恩を返さないと気持ち悪いなって思っただけで、それだけの理由なんだよ」
「とても素敵な信条ですね」
「あ、ありがとう」
好感度が上がっていそうな雰囲気に俺はちょっと嬉しかった。別に媚びる為に恩を返した訳じゃないけど、褒められると素直に嬉しいんだよな。
「……それにしても、お互い助け合うとは不思議なものです」
グレンシアは可笑しそうに肩を震わせた。確かに奇妙な事だなあ! まさか、ゴブリンと追いかけっこしてるような変人に救われるなんて、あの時のグレンシアは1ミリも思わなかっただろう。けど、横で笑うグレンシアはすごく嬉しそうで、馬鹿にする訳でもない。ご機嫌な顔に見えるし、俺は首を傾げた。
グレンシアが嬉しい要素なんてあるのか? 助かった事が嬉しくて、ではないと思うし……助け合った偶然がそんなに可笑しいのかなぁ。理由は分からないけど、俺がグレンシアに何かしてあげられたのならよかったよ。
「直哉さんは異国の方なのでしょう。よろしければ、城下町へご一緒しませんか?」
「いいのか?」
異世界の街がどんなものか興味があるし、この世界の住人と関わって話を聞くのは面白そうだ。
ゲームと違う所はあるんだろうか? 全く同じなら予言者君臨になっちゃうし、不用意な発言はしないように気を付けよう……。
「では、明日お迎えに上がります」
一緒に出掛ける約束をした俺たちは、湯上りにグレンシアの部屋にあるバルコニーで涼む事になった。
なんか、グレンシアが俺の事を離してくれないような……? 気のせいかな。うーん、そんなに俺に興味があって会話がしたいのかな。まあ、物珍しい人間だという自覚はあるぞ。
「うわー気持ちいいな、俺が居た世界より空気が綺麗だから気分がいいよ」
「この辺りも自然豊かですからね」
言った後にしまったと思ったけど、グレンシアは気にしていないようだ。
「……今日はジュリアを守る事が出来て嬉しかったです」
「そりゃそうだよな、誰だって命がけで守るよ」
「ええ、攫われた後の惨さは誰もが知る所ですからね」
俺はゲームで知ってるよ。胸糞悪いったらないけど、人気ゲームなんだよな。なんか申し訳ない。
「来月、ジュリアは隣国の王子へ嫁ぎます。それまでの間、どうしても守りたいのです。せっかくの恋愛結婚ですから……」
グレンシアが語る言葉にぐっと涙を堪える。
そんな設定だったのかよ? 恋愛結婚間近であんな酷い目に遭っていたのか?
グレンシアの最期の無念が俺の想像より大きかったんだと知って、胸が締め付けられた。
「結婚式前の儀式をする為、あの洞窟に居たのですが儀式の帰りに襲われてしまい、直哉さんが助けて下さらなかったら、永遠の別れを迎える所でした……」
「お、俺も結婚式まで、グレンシアさんと一緒にジュリアさんを守るよ。お姫様が恋愛結婚だなんて応援したいからな」
ただの社畜がお姫様を守るという展開は胸熱だ。ちょっとカッコつけました、はい……。
「ありがとうございます」
王子様らしく跪いて手を取りお礼を言われてしまった。
そのうえ、グレンシアの唇が俺の手の甲に触れる。
あれ? ん?
「えええっ!? えぇ――――!?……ええっ?」
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