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第6話 王子様の誓いのキス②
この世界で初めての朝を迎えた。あの後、謎のヒロインポジションで混乱してしまい部屋のソファーで考え込んだ俺は、あろう事かそのまま寝落ちしてしまったのだ。
きっと風邪を引いてはいけないと気を遣ってくれたのだろう。俺とグレンシアは同じベットに寝ている。隣のグレンシアは起きる様子もなく無防備に寝息を立てていた。
夢なら、こんなにリアルな朝は迎えないよなあ! 夢じゃなかったか! ちょっとがっかりしたようなワクワクするような複雑な心境だ。
「まじかよ……あっ!」
隣のグレンシアを見ていれば、先ほどの約束を思い出す。謎のヒロインポジションで忘れかけていたけど、一緒にジュリアさんを守るんだった。約束を果たすまで帰る訳にはいかない。こんな社畜がお姫様を守るなんて夢みたいな展開だし、グレンシアは命の恩人だしな!
……目を覚ましたが、まだ明け方だし起きてふらふらしていたらご迷惑だろうなあ。二度寝するには眼が冴えているし、暇つぶしにグレンシアを観察しようかな。
隣で眠るグレンシアはとても綺麗な顔をしている。まつ毛は長いし、鼻筋は通っているし、唇も綺麗な形だ。お人形さんみたいとか、モデルみたいとか表現すればいいんだろうか? 身近にいないタイプだから表現方法が分からん。
「グレンシアって確か20歳だよな。俺より5つ下か、身長187㎝、体重60㎏、A型。誕生日は5月25日」
公式サイトに載ってた情報なんだけど、同じなのかな?
その時、グレンシアはゆっくり目を開けてこちらを見た。
い、今の聞かれたかな!?
ばっちり目が合っている状態でさっきの言葉を聞かれていた場合になんて言い訳すればいいかと頭を回転させる。だけど、グレンシアは何も言わずに「おはようございます」と挨拶をするだけだった。
「お……おはよう、もしかして起こしちゃったか?」
「いえ、いつもこのくらいの時間に起床しております」
「よ、よかった」
グレンシアは何もないように振舞っているし、聞かれてなかったのかも? いや、聞いて無いように振舞ってくれているだけかもしれない……。
知り合って間もないのに変だけど、グレンシアは相手の秘密を胸にしまってくれる人のような気がした。さすがに決定的な出来事があれば別だろうから、それは気を付けよう!
「あ、ありがとう、ベッドに寝かせてくれて」
「いえ、私がしたかっただけですから」
ちょっとだけグレンシアの言葉に違和感を感じたが「風邪をひかないようにしたかっただけですから」と捉えておこう。
昨日はヒロインポジションとか思い込んだけど、そんな訳もないよな。こんなイケメンがモブ社畜である俺を好きになる訳もないだろうし、俺って恥ずかしい奴だな! 申し訳ない!
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