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第8話 王子様の誓いのキス④
仕度を済ませて案内された部屋はいわゆるダイニングなのかな? 開放感のある高い天井にシャンデリアが下がっている。長方形に広いテーブルへ椅子が向かい合って置かれており、御馳走がずらっと並ぶ。
朝から豪華すぎるし、ものすごい量だ。どう考えても食べきる事は想定されていないだろう。王族は好きな料理にだけ手を付けて下げ渡す感じなのかもしれない。それなら遠慮なく気になる料理を頂こうか。俺は椅子に腰かけると、料理を眺めた。
うーん、これはウサギの丸焼きだろうか? ホーンラビットとか呼ばれてる王道モンスターじゃないよな? この世界の人ってモンスター食うのかな……そんな事訊いたら異世界人ですって言ってるようなもんだし、確認のしようがない。
つーか、元の世界でもウサギは丸焼きで食わないけどな。ウサギは飼うものだろ、丸焼きにしたら可哀想だよ。まあでも、食べてみるけどね! 味が気になるし。
俺は切り分けてもらった肉をナイフとフォークで一口大に切ると口へ運んだ。噛むのには少し勇気が居るけど、それは杞憂だった。
「……んな!」
うまい、とろける肉質にしつこくない脂身。和牛も凌ぐ高級感! これ絶対、モンスターだ! ゲームで極上肉って書いてあるアイテム名の肉だわ、これ! すげー食べてみたかった極上肉だあああ!
「いかがでしょう、直哉さんのお口に合いましたか?」
「美味しいよ、すごく! これ食べてみたかったんだ!」
「ホーンラビットの極上肉ですから、確かに希少かもしれませんね」
本当にホーンラビットの極上肉だったのかよ。俺の夢が叶ったよ。ずっと、食べてみたかったアイテム食べたぞ! ゲーマーの夢過ぎるだろ、これ! 異世界転移万歳だな!
「俺の故郷じゃ絶対手に入らないからな」
「喜んでいただけてよかった。必要なものはなんでも用意しますから遠慮なく申し付けて下さいね」
「ああ、ありがとう……」
なんだろう、恩があるとはいえ親切だな。
そうか、グレンシアは人を甘やかすのが好きなのかもしれないな。誰かの為に何かをしてあげる事が好きな人っているもんな。趣味だったり性分だったり、徳を積む為とか理由は色々あるだろうけど……何はともあれ、グレンシアは本当に良い奴なんだなあ!
頼り過ぎないようにしながら、何かお願いしよう。その方が嬉しいんだろうからな!
「じゃあ、街で何か買ってほしいな。俺はこの国の通貨を持っていないから何も買えないんだ」
「所持金もなく、王都まで来るのは大変でしたね……」
うわー何喋ってもボロしか出ないなー俺! そうだよな、荷物も無いうえに所持金も無くてどうしてたんですかって言いたいよな。モンスター倒して食う武器すらないんだぞ。俺の存在って謎過ぎる!
「あ……いえ、直哉さんとお出掛けできる事が嬉しいです。一緒に品物を探しましょう」
毎回、グレンシアの優しさと気遣いに助けられている気がする。思いやりによるスルースキルの高さは推せるな! いやもう、ゲームのキャラって感じはしないんだけどね。
会話してるとさ、グレンシアはちゃんと生きてるんだなって思うんだよ。血の通った人間で、きっと傷つきやすいからこそ相手を思いやる事が出来る。
ゲームの世界とか関係なく、ここに居る人たちは俺と変わらない人間なんだよな。
そんな事を考えて物思いにふけっていたのだが、時間は進むし、王子様は多忙だ。
朝食を済ませた俺たちはさっそく城下町へ向かった。
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