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第9話 王子様の誓いのキス⑤
城門を抜け徒歩で街に出れば、中世ファンタジーの街並みが広がる。しかし、城下町は異様な光景になっていた。女性が一人もいないのだ。出歩くのは男性ばかり、店の主人も男性だ。
女性がどこにいるのかは聞くまでも無い。ゴブリンが怖くて家にこもっているのだ。奴らは街中に突如現れる事もあるし、女性が出歩けないのも納得と言わざるを得ない。
「なんというか、気の毒だな……」
俺の小さな呟きに、グレンシアは悲しそうな表情を見せた。
「幼い子供でさえ怯えています。突如現れた脅威を払わねば、息苦しく不安な日々が続くでしょう」
ここの住人からしたら、俺は神の世界から来たのかもしれない。
でも、簡単に助けてやるよと言えるほど強くないし、万能じゃない、俺はただの社畜で弱い人間だ。勇気の問題なのかもしれないけど、何か力になろうと行動をするのは難しいな。ジュリアさんを守るだけで俺には精一杯だよ。
「グレンシア殿」
俺が自分の無力さにぐるぐる思考を巡らせていたら、背後からグレンシアを呼ぶ声がした。
振り返るとグレンシアより少し身長の低い20歳前後の貴族らしき男性が立っていた。貴族の男性は色素の薄い緑の瞳で、スカイブルーの髪をひとまとめにしている。そう、ひとまとめにできるくらい髪が長い。つまりこの世界の常識で考えるとこの人は男色趣味があるのだろうか?
「お前には関係のない事だ」
「!?」
なぜか俺の心の声が聞こえているかのように、目の前の男性にぴしゃりと怒られた。
「直哉さん、彼はアルテッド。私の遠縁でこの国の貴族です。人の考えを見抜くスキルを持っています」
「なぜ、お前のような庶民がグレンシア殿と共にいるかは知らないが、おかしな考えをすればすぐに処分を下してやるからな」
俺はアルテッドに喧嘩腰で睨まれた。貴族って偉そ……じゃなかった。この人はグレンシアの為に警戒してるんだよな。心の声で喧嘩を売らないようにしよう。
「ふん、よい心がけくらいは出来るようだな」
「ありがとうございます」
異世界人だって考えないようにしないとな。……あ!
「……」
「……」
「直哉さん、大丈夫ですか? 顔色が悪いですが……」
グレンシアの心配に応える余裕が無い。アルテッドに俺が異世界人だとバレた!
ど、どうしよう!?
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