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第10話 想い人はお前だよ!①

「ふん……そうか……」 「あ……いやあ!」  異世界人だとバレてしまい、冷や汗をかく。意外とアルテッドは冷静で、俺を観察するように見てきた。   「しかし住民は皆怯えているな。この街の閉塞感を打破できるジョーカーが手札にあればよいものだが」  アルテッドは異世界人であると宣言してしまった俺の思考に触れる事なく、遠回しにお前は切り札になり得るのか? と問いかけてきた。正直、今の俺にそんな勇気はないので、心の中でどう返せばいいのかわからない。  俺が救世主になり得るならいくらでもなるけど、オールアップの魔法くらいしか特技もないしなあ! 「グレンシア殿、彼のスキルをご存知ですか?」 「昨日、見事なオールアップの魔法でジュリア共々命を救われました」 「!」    グレンシアの言葉を聞いたアルテッドは目を見開いた。だいぶ驚いている様子だ。オールアップってすごい魔法なのかな? それとも、王子と姫が命を落としかけた事に驚いているとか? アルテッドは俺に対して軽くお辞儀をした。 「王家の恩人とは知らず無礼な態度を取りました。謝罪致します」 「いや、俺はほとんど何もしていなくて!」 「謙遜ではなさそうだが、謙遜にしかならないな」  アルテッドは謝罪の緊張を解くと、肩をすくませ笑った。  よくわからないけど、アルテッドは俺の力を評価してくれる気らしい。彼の言葉や態度からして、俺が異世界人である事は胸にしまってくれるのだろう。そう思えば、アルテッドは俺に頷いてくれた。  この人、いい人だ! よかったーどうなるかと思ったよ! 「そこの美丈夫方! ちょっと見ていきませんか?」 「エルド、いきなり声を掛けてくると知った顔に驚きます……」    安心していたら突然、近くの出店の店主から声が掛かった。グレンシアにエルドと呼ばれた彼は細くあるが筋肉質の長身で、薄紫の髪に黒い瞳だ。なんというか、怪しい黒のローブを身に纏っている。  魔法使いとか黒魔術師とか、そういう感じの職業の方かな? 彼の店には怪しいマジックアイテムっぽい何かが並んでいるし、これを作っているとしたら錬金術師とか? 職人系? 商人って事もあるかもな。 「お前、詳しいな」  俺の思考がわかるアルテッドにゲームオタクとしての知識を披露してしまった。今だとアニメとか漫画でも王道っていうか、普通の設定なんだけどね。しかし、本当にゲーム世界のまんまなんだなあ。 「……」  ちょっと大っぴらに考え過ぎただろうかと心配になってアルテッドの顔を確認するが、気にするなという風に穏やかな表情で返してくれた。よかった。  人の思考が分かるスキルなんて持っていると、寛容にならざるを得ない部分があるのかもしれない。人間の思考なんて、欲望まる出しだろうし、悪意を抱いているなんて事もザラにあるだろう。  だからといって、それにいちいち突っ掛かったり気に病んでいたら、身が持たないのは簡単に想像できた。

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