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第12話 想い人はお前だよ!③
「はっ! ふん! えいっ」
俺たちが買い物をしている近くで、男の子たちが木の剣を手に素振りをしている事に気が付いた。一生懸命に剣を振って声を出している。
額には汗が滲んでいるし、顔も真剣だ。彼らには守りたいものがあるんだろうなと、聞かなくてもわかった。姉妹かもしれないし、母親かもしれない。もしかしたら街や国を護りたいのかもしれない。10歳前後の男の子が手にマメを作って毎日鍛錬をする、全ては脅威があるせいだ。
「おい!」
「え?」
9歳か10歳くらいの小さめの男の子が、俺に怒りを滲ませている。理由が分からなくて、どうしたら良いか分からずにいると彼は手を開いて俺に向けてきた。その手にはマメがあり、血が滲んでいる。
「おまえ、男なのに手にマメやタコもないとは情けない奴!」
なるほど、確かにこの国の男性って手の皮厚そうなんだよね。剣を扱うのが義務教育なのかもしれない。子供からしたら自分の手にマメがあって痛いのに、タコすら無い奴が居たらムカつくのかもしれないな。
「いや、俺は剣が無い国から来たからな」
「え……そんな国があるのか?」
「剣以外で戦うんだよ」
「魔法か!」
「うんまあ、俺も魔法は扱えるぞ」
「みせて!」
「ええ!?」
困った様子の俺をグレンシアは苦笑いしながら見ている。彼はこちらに歩いて来ると、少年と目の高さを合わせた。
「20体のゴブリンを瞬殺する魔法です。彼がここで魔法を使ったら大変な事になりますよ」
「すげー! グレンシア様、教えて下さってありがとう!」
男の子は満足したのか鍛錬に戻っていった。グレンシアは男の子にとって気さくな王子様なんだろうな。王族が気さくってすごい事だと思うんだよな。
「グレンシアは理想的な王子様なんだな」
「直哉さん、突然どうしました?」
「いや、子供に慕われるような王子がいつか王に即位したら理想的だろ?」
「そう、でしょうか」
「俺はすごい事だと思ったんだ」
「ありがとうございます……嬉しいです」
グレンシアは頬を染めてはにかんだ。その顔が、可愛らしく見えて戸惑う。綺麗なだけだよな? 美人は男女関係なく、人の心を掴むものなんだろう。元居た世界でグレンシアほど綺麗な男性を見た事がないから、まったく知らなかった!
「いやー大魔法使い様がこの国に居るなんて心強いですね、アルテッド様」
「……」
エルドが話しかけたのに、アルテッドは黙って不機嫌そうだ。仲が悪いのかな? いや、この店主……よからぬ事を考えていて、それがアルテッドに筒抜けなのでは!? そうだとしたら、グレンシアがこの店から指輪を買うのはよくない。
「グレンシア」
「どうしました?」
「その指輪は買わない方がいいと思うんだ……」
「それはっ……」
グレンシアは何か言いかけて言葉を飲み込んだ。頬を染めて何を焦っているのか……そうだよな、ごめん。20歳ってまだ思春期抜けないよな。自分の恋愛に口を出されたようで恥ずかしいんだ。俺とした事が気を遣えなくて申し訳ない。
「はははっ」
アルテッドが声を出して笑った。どこにそんな面白い思考のやつが居たんだよ。俺は周りを見渡すけど、近くに人はいない。おそらく、グレンシアだな!
「お前だよ」
「俺!?」
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