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第13話 貴方に出会えてよかった①

 俺とグレンシアはアルテッドと別れて街の散策を再開させた。  エロゲー世界なのに、人間が1人1人生きていて、キャラでは済まないくらいそれぞれの暮らしと人生がある。住人と話して、その事が良く分かった。住人の住む町の区画や商店街どこに行っても、人々が何気ない暮らしをしている。  守れるもんなら守りたいよな……。でも、そんな力があるって自信はないな。  ぐうー。 「直哉さん、この店。美味しい定食屋として有名なんです。寄って行きましょう」  グレンシアは俺の腹の音には触れず、スマートに飯屋へ誘ってくれた。  王子なのに定食屋に入るのも好感度が上がるけど、気遣いのスルースキルが本当に高いな!  2人で店に入るといい匂いが漂ってきた。迎えてくれた店員は丁寧な接客ではあるけれど、恐縮する素振りはない。グレンシアが些細な事で怒ったりしないまともな王子だと知っているのだろう。  俺たちは個室っぽく仕切られた窓際の席に案内される。俺たちが入店すると他の店員が慌てて仕切りを置いて個室を作ってくれていた。おそらく、最大限のおもてなしをするというのは王子への敬意なんだと思う。  王族に来てもらえるなんて店にとっては名誉な事だし、王室御用達なんて看板をつける事もできる。町の人からしたらグレンシアの訪問は日々のお祭りのようなもので、出会えるとちょっといい日になるんだろうと思った。 「グレンシアって四つ葉のクローバーみたいだな」 「草ですか?」   「俺の故郷では幸運を呼ぶ御守りなんだ。押し花にして大切な人に渡したりするんだよ」 「私が幸運を呼ぶのでしょうか……」 「町の人にとって、幸運そのものだろ」  不思議そうに首を傾げいたグレンシアの表情が緩んだ。また彼のはにかんだ顔に心を掴まれる。 「そうでありたいです」 「グレンシアならずっと幸運でいられるよ」  そんな話をして、いざメニューと思ったらこの店には日替わり定食しかないらしい。苦手なものがある客は困るだろうけど、それでも通いたくなる店なのかもしれない。  一体どんな料理が出て来るのだろうか?  ホーンラビットの極上肉を食べてるグレンシアが美味しい店だとおすすめするくらいだから、心配は要らないだろうけど、なんせ異世界の定食だから未知との遭遇かもしれない。  食べる事が好きな俺は年甲斐もなく浮かれていた。

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