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第16話 貴方に出会えてよかった④
◇
花屋で何かがあったのか? グレンシアは何か落ち込んでいる様子で、浮かない顔をしている。甘やかし王子だから、花を全て受け取ってもらえなくて不機嫌に? いや、俺が一輪だけ買った事で全て買おうとした自分を否定されたと思っているのかもしれない。年齢相応に子供っぽい所があるんだな。
ピーマン苦手だし、可愛いな。
俺の視線に気付いたグレンシアは頬を染める。
「どうした?」
「いえ、直哉さんが笑っている顔が……いいなと思って」
それはなんというか、俺の台詞というか。グレンシアがはにかむ度に俺も同じ事思ってるよ?
「グレンシアの笑顔には敵わないけどな」
「っそれは……」
カンカンカンッ!
おそらく警報だ。空にかん高く騒々しい音が鳴り響いた。人々の声も叫びにも似た慌てたものになり、皆建物の中へ避難する。グレンシアの表情は一気に険しくなり、花をアイテムボックスへ丁寧にしまうと、俺の手を引いて街の門へ走った。
緊急事態だからなんだけど、いきなり手を繋がれてビビったな。食事して買い物して手を繋いだら完全にデートでは? いや、そんなアホな思考してる場合じゃなさそうだ。
街へ繋がる門では兵士の死体が転がっていた。大人数の兵士がゴブリンを退ける為に門前で戦っている。俺たちは小さな門扉から外へ出たので、門自体は破られていない。
俺は咄嗟にオールアップを思い出した。グレンシアが俺をここまで引っ張ってきたのはその為だろう。兵士全員に掛ける事が出来れば、圧勝は間違いない。
「オールアップ」
しかし、魔法は発動しない。そうか、MPがショボすぎて全員分には足りないんだ。
「ごめん、グレンシア1人にオールアップを掛けるので精一杯だ」
「充分です」
そう力強く頷いてくれたグレンシアに俺はオールアップを掛ける。
彼は俺にバリアっぽい魔法をかけてから、剣を引き抜き駆け出した。俺を包むバリアがバチバチ光っている、オールアップの影響でめっちゃ強力なんだろう。間違って触らないようにしよう……このバリア怖い!
グレンシアの光を放つ剣でゴブリンは薙ぎ払われる。逃しはしないと振りかざせば距離があるのに緑の小鬼たちは真っ2つだ。最強という名が相応しい戦闘に見惚れていたら、あっという間にゴブリンの討伐は終わった。
周囲の兵士が歓声を上げて、グレンシア殿下万歳コールが起きている。しかし、強いな……鑑定してみるか。
全ステータス999……?
これって、この世界のカンストか?
「直哉さんはこの世界の救世主なのでしょう」
この事実を、グレンシアは知っていたのだ。なら俺を大切にする理由は、このチート能力が目当てか?
急に寂しさと虚しさで押しつぶされそうになる。俺は、グレンシアと仲良くなれたと思っていたし、彼の笑顔が本物だと信じていた。でもよく考えたら、そんなのはおかしいんだよな……。
「直哉さん、どうしました? まさか怪我でも……」
「……」
人の心を想像しても意味はない。相手にしかわからない事だし、そんなものに真実はないんだ。俺も大人だしな、そんなのはわかっている。けど、辛い。
グレンシアが俺の目尻を指の背で撫でた。それで自分が泣いていたのだと知った。
「直哉さん、何か辛い事があるなら話して頂けませんか?」
「……」
なんて説明すればいい? こんなん言えた事じゃないだろう。
「……もしも利用されていると思わせてしまっていたら、すみません」
「……ごめん」
謝る声がかすれてしまった。泣きそうだ。この世界で独りぼっちは辛いし、グレンシアを信じていた気持ちが崩れていくみたいなんだ。
「いえ……そんな風に思わせてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
「いいんだ、ごめんな……?」
「直哉さん」
「……」
グレンシアは両手で俺の手を包む、彼の体温が辛く感じられた。
「私は直哉さんの事が好きです。今、まさに力を貸してもらっておいて都合よく聞こえるかもしれませんが、大切な人なんです……とても」
「その言葉が嬉しいよ」
「……信じてもらえないですよね」
グレンシアの表情はすごく悲しそうだった。もし、本当にグレンシアが好意で俺へ親切にしてくれているのなら、今の俺は無神経な無礼者だ。
そもそもチート能力目当てで利用されていたとして、何か問題があるのだろうか? ショックだっただけなんだよな。なぜかわからないけど、グレンシアに利用する為という下心があったら……すごく嫌なんだ。
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