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第17話 好きという感情には…①

 今の俺には、目の前のグレンシアを受け入れる事も許す事だって出来ない。悪いのは俺かもしれない。疑いでしかない。わかってるんだ。利用されていたとして、それをさらに利用するくらいの気概もない奴が悪い。  門がゴゴゴっと音を響かせ開くと、その向こうにはアルテッドが立っていた。騒ぎに駆け付けたのだろう彼は走ってこちらへ近づいてくる。そのままの勢いで俺の顔に、ぱしんっ! という音を響かせた。アルテッドが俺の頬を平手打ちしたのだ。 「お前は馬鹿なのか!」  叫ぶアルテッドに驚いた様子のグレンシアは慌てて彼の手首を掴んだ。 「アルテッド、突然何をするのですか」  アルテッドはグレンシアの言葉を無視し、俺を睨んで怒鳴り始める。 「私が人の考えを見抜く力を持っているのは知っているな」 「さ、さっき教えてもらった……」 「いいか、グレンシア殿にとって利用価値だけなら、ここまでお前を大切にする必要はない。王子という時間や自由もない中で、お前をかまうのは大変な事だ。それくらいの想像力は働かせろ、大人にもなって相手の事情を察する能力がないのは恥ずべき事だぞ」  ぐぅの音もでない正論だ。アルテッドはグレンシアと変わらない年齢だろう、つまり俺より年下だ。脅威のある世界だと20歳でも意識が高い。のかもしれないが、25歳で20歳からお説教をくらう事のいい訳にはならん。俺は25歳の社会人なのに、子供のような態度と考え方だった。    よく考えれば、わかった事だ。グレンシアが個人的に俺に興味が無ければ、こんなに時間を割いて優しくしてくれるなんて、あり得ないんだよな。  ――俺にとって、それはとても嬉しいんだ。 「こいつもグレンシア殿の事を好いています。だから、仲違いなんてくだらない時間は過ごさないようにして下さい」 「あ、ありがとう」  俯いたままグレンシアはアルテッドへお礼を言った。その表情は暗くない。ただ、戸惑っている様子だ。   「後はお前たち次第だが、王族に対してこれ以上の無礼を働けば見逃せない」  そう言い残して、アルテッドは街の中へ立ち去って行った。  あれ、アルテッドは何しに来たんだ? まさか俺たちの事を取り持つ為にわざわざ来てくれたんだろうか?  世話焼きな、いい人なのかもしれない。厳しいけど、行動には思いやりがある。引っ叩かれた頬も痛くないし、グレンシアには良い友人がいるんだなと感心してしまった。  って、ああ!  思い出した。散々、グレンシアを疑って酷い態度と言葉で傷付けた事を……。  俺はすごい勢いでグレンシアの膝に泣きついた。びっくりしたグレンシアは体をびっくっとさせて、固まっている。 「グレンシア、ごめんっ! 俺、グレンシアを疑って酷い態度を取ってしまった」 「直哉さん……」 「俺にとって、この世界で頼れるのはグレンシアだけだし、仲のいい人も、大切にしてくれるのもグレンシアだけなんだ。そんなグレンシアに利用されてたら悲しくて辛いって感情が抑えられなかった……自分勝手な言い分でごめん」  グレンシアは片膝を地面につくと、涙目で情けない俺を抱きしめてくれた。 「先程、私が直哉さんを都合よく使ってしまったのは事実です。ですが、もう無理強いはしません。直哉さんの気持ちを考えられず、すみませんでした……」  俺は本当に子供みたいだ。元の世界の俺より、今の俺は感情豊かになっている。大人になって泣いたのなんて、この世界に来てからだ。感情を抑制して、社会に馴染んで、歯車になる。元居た世界では、当たり前にそんな人生だった。 「グレンシアのおかげで俺は生きる事が楽しいよ」

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