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第22話 仲直りの婚約指輪①

 朝の仕度も終えたし、俺はむぅを連れてグレンシアを探し始めた。  指輪のお礼を言わないと!  俺の事を許せば、また傷つく可能性があるかもしれない。そう考えてもおかしくないのに、それでも許してくれた。そんなグレンシアを大切にしたい。その気持ちを込めて、お礼が言いたいんだ。  俺は左手の薬指にある指輪を時折眺めながら、城中を歩き回っていた。 「直哉様」 「あ、どうも」  城の執事さんに話しかけられた。執事さんは綺麗な所作で頭を下げ挨拶をすると、俺をダイニングへ案内してくれた。  そうだよな、グレンシアも朝ごはん食べている時間なんだよなあ! 指輪に浮かれて、朝食の事を忘れていた。    ダイニングではグレンシアとアルテッドが席に着いてクラッカーと紅茶を嗜んでいる。  グレンシアが俺を見た時の顔は少し戸惑っていたけど、昨日より元気そうな様子に安心したぞ。そうだ、精一杯の気持ちを込めてお礼を言う事にしよう! 「グレンシア、この指輪ありがとう! すごく嬉しいよ!」    俺はグレンシアに指輪のお礼を言った。嬉しいと、素直な気持ちなのだが、グレンシアはぽかんとしている。  やれやれと言うふうにアルテッドがため息をついた。 「グレンシア殿から仲直りの印をもらえて嬉しいのだそうです」  その言葉にグレンシアははっとして、肩を震わせ天を仰ぎ笑い出す。俺に呆れているようだ。  よくわからないが、仲直りできたなら細かい事は気にしないぞ? 「お前は素直で情に厚くてお人好しで天然だ。もう少し器用に生きろ」  なぜかアルテッドに苦言を呈されてしまった。  そうか、これからもグレンシアと仲良くしろって言いたいんだな! 任せろ!  アルテッドは紅茶を吹き出しそうになってむせる。 「こほっ……この単純馬鹿!」  アルテッドには罵られるし、グレンシアは俺に呆れているみたいだし……これは、好感度が下がっているのかな? 「せいぜい不安になっておけ」  アルテッドはそう言い残すと、立ち上がりダイニングを出て行った。 「直哉さんもお座りください」  呆れてものが言えない状態だったグレンシアも一周回ってか、いつもの口調に戻ってくれた。その態度や表情も俺を拒むものではない。  ふと、グレンシアの左手の薬指にも同じ指輪がある事に気が付いた。俺は椅子には座らずにグレンシアの隣に立って、グレンシアの左手を手に取る。 「お揃いだな」    お揃いだと思って、グレンシアの手を取っただけなのだが……。 「……まるで悪魔のようです」  グレンシアは俺を悪魔のようだと言った。なんという悪口! でも、グレンシアの頬は染まっている。  もしかして、俺って無意識に距離感がおかしいのかな? 仲良くなったからこれくらい大丈夫だと思っていた。  俺が家出したから距離感変わったのか? うーん、そもそも俺たちの距離感ってどんな感じだ? グレンシアは俺が好き、俺は一度断ったけど、グレンシアが好き。でも男同士は、無理。俺、ややこしいな!  しかし、なんだろうか。ここは正直にグレンシアに俺の気持ちを伝え、改めて謝っておきたい。 「グレンシア……家出みたいな事をしてすまなかった。好意を断った事もごめん」 「いえ、それはもういいんです。直哉さんが今ここに居てくれるだけで充分ですよ」  優しい口調で許してくれたグレンシアに、俺は涙が出そうになり思わず本音を溢す。  「ほ、本当は、男同士でするの痛そうで嫌だったんだ! 3日間よく考えてさ……やっぱりその気持ちが大きくて、他にグレンシアを拒む理由はないんだよな」  と、伝えたところで、グレンシアは「それだけですか?」ときょとんとしている。  俺にとっては大問題なのだが……グレンシアはピンとこないらしい。この世界で男色が普通なら、グレンシアも経験があって、慣れているのかもしれない。もしかしたら痛くないようにしてくれたのかもしれない。  でも、幼少期から注射を全力拒否してきた俺は痛いの苦手なんだよ! 怖いのやだ! 「俺にとっては大事な事なんだ!」  思わずキレてしまった。確かに、注射が大丈夫な人には理解されない話だ! 大けがする様な事じゃないし、ビビっている俺がバカみたいなのは重々承知だ。  男同士でするくらい我慢しろと言われればそうなんだが、人には向き不向きがあって、俺は痛いのや怖いのは無理なんだよぉぉぉ! 「な、直哉さん。落ち着いて下さい。お気持ちに配慮できず、申し訳ありませんでした。ですが、痛いことは絶対にしません。ケガをしない為の魔法やアイテムもあるので大丈夫です」  いや、それ先に言って欲しい。

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