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第25話 俺がシステムエラーでも

 グレンシアが俺の手を離した所で、ジュリアが話しかけてきた。 「よい雰囲気の所申し訳ないのだけれど、報告があるの。闇ギルドの情報よ」 「ジュリア、またそのような治安の悪い場所へ……」 「いいから! 聞いてよ、お兄様」  ジュリアはグレンシアに「ゴブリンの中に特別知能の高い亜種が存在する。それは人間の姿にゴブリンの耳がある男だ」という情報を闇ギルドで仕入れたのだと伝えた。 「それは……私から父上に報告します。それよりも反省しなさい、ジュリア」 「いやよ」  ジュリアは反省する気がないらしい。 「お嫁に行くまでの間、できる事をしたいじゃない?」  とジュリアは俺に笑いかけてきた。 「いや、俺が守れないと困るから一人で行動するなよ」 「貴方一人では弱いじゃない」  と、お姫様に切り捨てられてしまった。本当の事だけど、男としては傷つくよ?  だが、暢気に会話をしている場合ではなかったらしい。グレンシアが報告するよりも早く、城の上層部は慌ただしい状態になっていた。  グレンシアへ来た報告によると、ゴブリンから書状が届き、そこには「ジュリアを渡せば、1年間ゴブリンに人々を襲わせない」という取引内容が書かれていたという。もちろんふざけた内容だ。破棄するのは当然として、相手が交渉できる存在だと分かった。  おそらく相手は、取引を成立される為ではなく、交渉するという意思を伝える為に書状を送って来たのだ。 「人間と同等の知能があるゴブリンって……」  ゲームで考えると、ラスボスかな。  思考していれば突然、風が吹き荒れる。不思議な動きで砂埃が舞い、俺たちの視界を塞いだ。  風が止んで、目を開ければそこには緑の長い耳を持つ人間の男が立っていた。  いや、限りなく人間に近いゴブリンだ。   「我はゴブリンの長、ジアン」  ゴブリンの長って……そんな存在、ゲームには居なかった。ましてや、ここまで人間の様な姿をしたゴブリンなんているはずがないんだ。つまり、彼は……。 「我は、ゲームの製作者が最後に残したこの世界のバグだ。意識せず作品に命を宿してしまう事はよくある。神がきまぐれでこのような世界を作るのだ。一種のパラレルワールドとしてだ」 「なんで、知っているんだ? この世界のバグってなんだよ」  不可思議としか言えない存在であるジアンに疑問をぶつけるが、真正面からは答えてくれない。 「我はバグとしてこの世界最強の力と知恵を与えられた。この世界がゴブリンの繁栄の為に作られたのなら、邪魔をするようなプレイヤーは排除しなければ。ゲームバランスを保つそれが我の存在理由だ」 「お前はこの世界のシステムを制御する存在なのか? バグでありながら、プレイヤーを排除するってどういう事だ……お前はシステムエラーなのか?」 「今日は挨拶に来ただけだ」  そう言い残し、ジアンは姿を消した。 「不思議な会話だったわね……」  ジュリアはぽかんと俺を見ている。  この世界の人からしたら、バグとかシステムって言われても意味が通じないんだなあ。  理解のできない単語が使われた会話では自分たちがゲームのキャラクターである事も理解できなかったはずだ。その方がいい。自分が創作物だなんて知りたい人間はいないだろう。 「直哉さん……今の彼は一体」 「わからないが、敵である事は確かだ」  ジアンの手で俺という存在が排除されたら、グレンシアを悲しませる事になる。  それは絶対にダメだ。    グレンシアを守る為にも、倒すしかない存在――。 「大丈夫、グレンシアの事は俺が守るから」  グレンシアは表情を緩め、俺の手を取り自分の唇に寄せた。このスキンシップには弱い。恥ずかしくて、手を引っ込めたいけど離してもらえずに、ただ悶えた。  おそらく、ジアンはプログラムバグなのだろう。  仮想世界が人間の生きる本当の世界になった。制作者からすれば、この世界全てがバグなのかもしれない。 「ジアンが敵だろうと、俺のする事は変わらない。ジュリアを守って、グレンシアと一緒にいる」  グレンシアの死亡フラグなんて、俺が生涯をかけて消滅させてやるさ。  カッコつけた気分になっていた。しかし気が付けば、むぅがジュリアの胸に張り付いてる。べったりと。 「うわああっ!?」  慌てた俺はむぅをジュリアから引き剥がす。  ジュリアとグレンシアは気にしてないけど、危うく痴漢従魔の主として罰せられる所だったぜ! ダメだろ、むぅ! さすが、エロゲー世界のモンスターだなあ! うん。    俺は部屋でグレンシアにだけはジアンがどういう存在で、この世界がどういうものかを説明する事にした。エロゲー世界という事だけは伏せよう。さすがに気分を害するからな。 「俺の世界からしたら、この世界はゲームっていう……物語が描かれた本の中のような所だ。ジアンは本来居るはずじゃない間違った登場人物なんだよ。この世界は物語が進めばゴブリンに支配されてしまう。そこに居るはずもない俺みたいな存在が加わる事で、本来の物語が書き換えられているんだ」  精一杯、ファンタジー世界の人でも分かるような表現にした。だが、言い換えると実にファンタジックだ。本当はゲームというデジタル世界なんだけどな。 「やはり直哉さんは救世主ですね」  グレンシアは俺に微笑んでくれた。 「ああ、救うよ。俺がグレンシアと一緒に」  俺の使命はグレンシアを守る事だし、世界ごと救う力があるなら全力を尽くす。グレンシアの世界をバグから守る。俺の存在自体がもはやバグなら、できる限り足掻くだけだ。    グレンシアは俺の手を取って、また自分の唇に寄せた。これされると恥ずかしいんだけどな! 「世界を救ったら、直哉さんがこの国の妃になる事を反対できる人間なんていなくなります。ですから、私は全てをかけて直哉さんを支えます。この世界を救い貴方が妃となる姿に焦がれながら」 「お、おう」  正直、お姫様になってしまいそうな展開に腰が引ける。恥ずかしいのは無理! と涙目なのだが、グレンシアはにこにことするだけだ。  グレンシアが俺の扱い方を熟知し始めている。  からかわれているのかもしれないが、どきどきするなあ!

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