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第27話 息抜きに街で買い物を②
ドライフルーツはパインやオレンジ、馴染み深いレーズンもあって、一通り買ったら予算が無くなってしまった。たくさん買ったから、旅の前にグレンシアと味見をしてみよう。
俺は1人で頭を捻って必要なものを考え、一通り買い揃えたわけだが。遠くから手を出さずにただ見守るグレンシアの表情は優しく穏やかで、まるで親御さんのようだ。
いや、今の俺、はじめてのおつかいみたいになってない?
俺の楽しみを奪わないようにという配慮だろうけど、複雑だ!
はじめてのおつかよく出来たねって感じなら、25歳としては恥ずかしすぎるからやめて欲しいなあ……!
「直哉さん、買い物は終りましたか?」
俺に近寄って声を掛けて来たグレンシアに少しムッとしたので、一応言っておく。
「はじめてのおつかいは終わりだからな」
「?」
グレンシアは意味が理解できないという顔をする。はじめてのおつかいという意識はなく、純粋に俺が買い物を楽しめるようにという配慮だったのかもしれない。俺が何をしていても、グレンシアは親御さんのような顔で見守るって事か? 5歳も年下に親心を持たれる俺って一体……。
「俺ってグレンシアのなんなんだよ」
「お慕いしている方です」
「……なんか」
「はい」
俺の方が年上なのに父性を向けないでくれ! と言うのも大人げないし、そんな事を言えば子供まる出しだし。仕方ないけど、圧倒的にグレンシアの方が大人なんだよなあ、精神年齢的にさ!
「……恋人です」
もごもごしている俺のなにを察したのか、グレンシアは俺を恋人だと言い直してくれた。そこに引っかかっていたわけでもないのだが、勘違いしてくれているなら乗っかろう。
それに、恋人かどうかをハッキリさせていなかったし……。
「俺も恋人だと思ってる……ぞ」
「直哉さん……」
グレンシアは俺を抱きしめて来た。街中の大通りで王子が男を抱きしめるのはどうかと思うが、いつも思慮深いグレンシアが周囲の目も気にしないで、俺に好意を伝え大切にしてくれるのはすごく嬉しい。
細かい事にこだわって不機嫌になってた俺って小さいな。しかも、抱きしめられただけでどうでもよくなる。
そんなつまらない俺を彼は許してくれるのだから、愛で心が満たされてしまう。
「そうだ、今日の記念に杖を贈らせて下さい」
「杖?」
「直哉さんは従魔術師なので、杖があればより強いモンスターを仲間に出来たり、命令しやすくなると思います」
「でも、折ったりしたら……」
恋人になった記念の品なら、実用品より大切にしまえる方がいいと思うんだが。
「直哉さんがお持ちになる杖は、すべて私から贈ります。杖ではなく、この約束が記念なのです」
グレンシアは相手の気持ちを考えての言葉選びが上手いよな。
「ありがとう」
俺からは何も贈れないなあ。……いや、あれか。俺が贈れるものと言ったら、バージン!?
「直哉さん、どうしました?」
「いや、なんでもないぞ!?」
俺は恥ずかしくて、挙動不審になりながらグレンシアと距離を取った。
グレンシアが喜んでくれるのなら、そういうのもありかなって思ったんだ……でも。
恥ずかしいなあ!
「無理、しないでくださいね」
「何が!?」
「あ、いえ。体調が悪いのでしたら、杖は後日買いに来ましょう」
「いや、すぐに行こう! 武器とかも触ってみたいし、夜寝るまでに考えるから!」
「? そうですか、では参りましょう」
俺が武器を触ってみたいと言ったから、グレンシアは武器屋へ案内してくれた。
武器屋では、屈強な体をした頭の禿げた親父が「いらっしゃい!」と野太い声で迎えてくれる。店主が俺に武器をほらよっと投げてくるが、鞘に入っているとはいえビビり散らかす俺。なんとか剣を構えようとするけど、重くて持ち上がらない。
見かねた店主が、短剣を持ってきてくれた。さすがに短剣であれば構えられるが、このずっしりとした武器を腰に下げていたら、だいぶ筋肉がつきそうだ。それくらい、武器とは重量がある。槍に至っては、なぜこれを振りまわせるんだあのアニメキャラ! と思うくらいに重い。
なぜ、グレンシアが俺に杖を贈りたいと言ったかよくわかるぜ! 前世でデスクワークしかしていなかった俺は魔法使い向きだな。まあ、攻撃魔法ひとつ使えないけど!
「武器って鍛錬してないとただの重い金属だな」
「ふふっ、そういうものかもしれないですね」
俺の言葉が面白かったみたいで、グレンシアは肩を震わせてはにかんだ。何がツボなのかはわからんけど、グレンシアが笑ってくれるのなら俺が貧弱でも価値があるような気持ちになる。
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