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第28話 息抜きに街で買い物を③

 しかし、健康体なのに武器ひとつ持てないような男はこの世界には居ないんだろうなあ!  グレンシアの笑顔で励まされるけど、男としてはなんか悲しいぞ? 「……武器ひとつ持てないとか情けないよな」   「直哉さんの魔法に敵う人もおりませんから」 「そ、そうか?」 「ええ、この国で一番の杖を買いましょう。それが直哉さんの持つべき杖です」  俺は単純な男なので、グレンシアの言葉で「自分は強いのかも!」という気持ちで杖屋に入る。そこには杖がずらっと並んでおり、魔法使いたちが杖を吟味していた。 「店主、彼に国一番の杖を」 「王国最大の杖屋として、恥ずかしくない一品をお持ちいたしましょう」  髭を蓄え腰の曲がった老店主は、布に包まれた1本の杖を俺に差し出した。  ふと近くの客を見れば、腕に血のにじんだ包帯をした冒険者が魔法使いと杖を選んでいる。冒険者パーティーというやつか。俺は杖を振るってむぅにあれを回復してみろと命令してみた。  するとむぅは、ふるふる震える。溜めに溜め、ついに動く……!  俺のポッケには銅貨が1枚残っていたのだが、むぅはその銅貨を触手で掴むとすごい勢いで店を飛び出して行った。  すぐに戻って来たむぅの手には銅貨の代わりに回復ポーションが!  いや、無理な事を頼んでマジすまん! 「なんというスライムだ! 杖の力……いえ、特殊個体!? 貴方様は一体……」  なぜか杖屋の店主さんは驚愕の顔でむぅをべた褒めしてくれた。  でも確かに、社会のルールを守りつつも手段を問わず上司の指示を遂行する姿勢とか、優秀な社員って感じがするよね!    一応、ポーションは冒険者さんにあげた。かすり傷程度だと回復魔法代やポーション代はもったいないと思うものらしい。一応怪我だし回復代が浮いて助かると感謝はされたけど、俺はガチの一文無しに。  むぅは申し訳なさそうに、ぺちゃんこになってうな垂れている。  絶対にノーとは言わないとかさ、一流のホテルマンみたいでカッコいいぞ? むぅ! 「きゅいー……」  むぅの沈んだテンションとは対照的に、店主のテンションはなぜか上がっている。 「この杖ならオークやドラゴンでも仲間に出来ますよ。お客様のように優秀な従魔術師様ならば必要なMPも十分お持ちかと!」  店主のおじいさんには悪いけど、俺のMPは雑魚だから……無理かなあ。 「直哉さん、その杖でよろしいですか?」 「うん、これがいいよ。軽いし、握りやすいし」 「店主、これはいくらでしょうか」 「金貨1万枚になります」  い……1万!? 2億円って事!? 「では、後ほど従者が支払いに来ますので」 「かしこまりました。お買い上げありがとうございます」  2億円であっても王子という信頼があるから後払い可能って事かな。いや、まて! 2億だよ!? 「グレンシア、さすがに2お……いや、金貨1万枚はダメだろ」 「お気になさらず、私の資産から出しますので国に迷惑は掛かりません」  そういう問題ではないが、グレンシアってどんだけ資産家なの? 資産億単位なの?  よく考えると、王子が貧乏な訳も無いか。でも、大金過ぎる事には変わりない。 「こんな高い杖は申し訳ないし、俺はもっと安いのでいいんだ」 「直哉さんは……この世界を救いたいのでしょう?」 「……!」  その大義の為に、良い武器を持てという事か。 「それに、この杖は直哉さんだからこそ使いこなせると思います。他の者が持っていては、宝の持ち腐れです」 「っそこまで言ってもらえるのなら……!」  正直、2億円にはビビるけど……でもさ、それを背負うくらいの覚悟がないと世界を救ったりできないんだ。俺は、甘かったかもしれない。この杖を所持して、気を引き締めよう。  店主さんは俺のMPを最高クラスだと思い込んでいるらしく、ハイエーテルを10個もサービスしてくれた。MP1000回復ってマジかよ。桁がはみ出し過ぎだよ。俺、MP2桁だよ。オーバースペック過ぎるっ!  杖屋を出て、うな垂れる俺。  王族は鑑定スキルが使えるから、グレンシアは俺のMPがたった20だと知っている。 「直哉さん、森へ行って戦闘訓練をしてみましょうか」  俺の様子を心配したのか、グレンシアがそう提案してくれた。ホーンラビット相手にむぅで戦えば従魔術師として経験値が得られるらしい。  さすがにレベルアップすれば、MPも上がるはずだ! 「グレンシア、ありがとうな!」  気軽な気持ちで森へ向かう。この後とんでもない展開が待っている事を……俺はまだ知らなかった。

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