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第29話 最強従魔と最弱主の俺①
森の空気はとても澄んでいる。葉っぱのいい香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
社畜だった頃、こんな自然豊かな場所に来る元気や時間はなかったなあ。
物珍しくなって日光を浴びた草むらに近付いたのだが、草むらから顔だけ出したホーンラビットと間近で目が合ってしまい俺は慌ててグレンシアの後ろへ逃げた。ホーンラビットは俺たちの様子を窺っている。
「一般的な冒険者くらいのレベルがあれば、低級モンスターは襲い掛かってきません。モンスターも無駄死にはしたくないですからね」
グレンシアのステータスは冒険者の比じゃないくらい高い訳で、低級モンスターたちは一定の距離を保って近付いて来ない。むしろ俺が少し近づいても凍ったように動かなかった。
「なんか、小動物みたいで倒すのは可哀想だな」
「モンスターですから、動物のように心を痛める必要はないかと」
「それでも、なんか心が痛む……」
草むらのモンスターたちを見て、むぅはやる気でぷるぷるしている。
「むぅ、やっぱりやめないか? レベルは上げなきゃなんだけどさ……」
「きゅい! きゅい! むきゅー!」
むぅの様子を見ていたグレンシアがくすっと笑う。
「どうやら、むぅは私たち以上にこの世界を救う気のようです」
「きゅっ! きゅいー! きゅっきゅっ!」
従魔のスライムがこんなに勇敢で正義に溢れているのに、主の俺ときたら……!
「よし、むぅ! レベルを上げるぞ! 世界平和の足掛かりとして、低級モンスターを倒す!」
「むきゅー!」
気合を入れた俺とむぅは戦闘開始だ。
しかし、むぅは1レベル、目の前のホーンラビットは5レベルだ。まともに戦えばむぅがやられてしまうかもしれない。そう思ったが、むぅは口から謎の酸液を出して、ホーンラビットを跡形もなく溶かした。
うわ、こっわ!
むぅの出してくれる水を飲んだり体洗ってた身としては、同じ所から出て来る酸液にビビるんですが?
むぅはどんどんホーンラビットを溶かしていき俺とむぅのレベルはガンガン上がっていく。
ついに15レベルに到達。これって、初級冒険者になれるくらいのレベルかな? たったの数分で、むぅすごいな。
「ホーンラビットを倒してもこれ以上はレベルが上がらないみたいだ」
「では、奥にいるオークを倒しに行きましょうか」
いや、オークってゴブリンよりヤバいんじゃないの?
「いや、さすがにむぅが倒されちゃうって!」
「その時には、私がオークを倒しますから大丈夫です。群れがいる縄張りまで進まなければ、危険は少ないですよ」
どぴゅぴゅ!
「きゅいー!」
怖いもの知らずのむぅは30レベルのオークをガンガン溶かす。群れでいようとお構いなし、縄張りの集落を全滅させて、レベル200のオークキングも溶かした。
俺たちのレベルは100に到達している。これは、上級冒険者より強いかも?
「100……レベル。むぅすごいなあ、お前……」
「はははっ! ふふっ」
グレンシアは腹を抱えて笑っている。意味不明な現象に出くわすと笑ってしまうものだと聞いた事がある。
面白いくらい理解不能な事態だ。
いや、どういう事?
「きゅい」
ぐぅごおおおおっ! ぐわああああっ!
それから山の頂上にいる500レベルのドラゴンと戦い、むぅが勝ってしまった為、俺たちのレベルは軽く200を超えた。もはやグレンシアよりレベル高いし、国に仕える騎士団長レベル……すら超えたかも。
「もういいよ! むぅがすごいのはわかったよ!」
そう言っていると、グレンシアが俺のステータスを見たようだ。
「215レベルで魔法スキルが2つしか増えていないのは不思議ですが、回復魔法と火の魔法を覚えたようですよ」
と言うので、炎の魔法を使おうとした。が、何も起こらない。よく見たらMPの最大値が5しか上がっていない。体力は300まで増えたのに、MPたった25!?
「俺の能力値低いな!」
グレンシアは笑いを堪えている様子だ。まあ、確かに215レベルでMP25とか雑魚過ぎて自分でも笑いたくなるよ。
「ふふっ……すみません、笑ってしまって……」
グレンシアは謝ってくれたけど、むぅのMPがカンストしていると気付いたようで、吹き出し笑い出した。まあ、わかるぞ。従魔最強の最弱主人だからな。
グレンシアは嬉しそうに笑う。
「グレンシア!? 笑い過ぎじゃね?」
「ごめんなさい……直哉さんを馬鹿にしているんじゃないんです。むぅが規格外というか、それで直哉さんは控えめなので……私が御守りできるなと思えば嬉しくて……むぅの凄さになんだか笑いが収まらなくて」
息絶え絶えに笑いを堪えながら、グレンシアは謝ってくれるけどさ!
「むぅの力は直哉さんの力なんですよ、だから経験値が入るんです。むぅが凄いのは直哉さんが凄いんです」
「……そっか、なんかごめん」
俺としては守られるお姫様ポジションは遠慮したいのに! 周りだけが強い気がするんですが!?
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