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第34話 嫉妬の変数は女?②

 ご飯を食べ終わって、3人は食後の雑談に花を咲かせている。俺にはよくわからない話ばかりだから散歩へ出る事にした。グレンシアは一緒に来ようとしたけど、嫁いでしまうジュリアと楽しく話せる機会は大切にして欲しいから丁重に断って俺だけで部屋を出た。  廊下を少し歩けば前からエルドが歩いて来たので挨拶しようと、近づいて声を掛ける。 「エルド、おはよう」 「……!」 「え?」  エルドが怖い顔をして迫ってくる。逃げようとしたが、壁際に追い詰められてしまい、振り払おうとすれば手首を掴まれた。 「離せよ! どうしたんだよ」 「動くな、よく見えない」  な、なにが?  暴れる俺を押さえ付ける為か、床に組み伏してエルドは俺の顔を覗き込んでくる。何かを確認しているようなエルドに違和感を覚えた。 「判定がWomanになっている」  それって、プログラム……だよな? 「直哉さん!?」  グレンシアの声が廊下に響いて、エルドが慌てたように俺の上から退いた。 「すみません、ちょっとバランスを崩しちゃいまして、怪我はありませんでした?」  エルドはいつもの調子で謝る。  グレンシアに頭を下げ、彼は早々に立ち去った。 「エルドに何をされたんですか? ……直哉さん?」    今のWomanって変数の事だよな? 判定って事は、男か女かの分岐で、俺は女って事? いや、意味わからん。この世界がプログラムの文字列で出来ていて、エルドはそれを見る事が出来るとしたら?  まさかだよな。こんな世界を構築する難解な文字列を理解できる人間なんてそういるはずがない。俺と同じプログラマーの経験があれば、わかるだろうけど……。 「直哉さん!」 「っ!? な、なに?」 「エルドの事を考えていたのですか?」 「ま、まあ、そうだな」 「……!」  グレンシアの顔が険しくなって、俺は慌てて言い訳をする。 「いや、そういうんじゃないからな! ちょっと気になった事があっただけで、浮気とかじゃないぞっ!」 「……感情的になっていました。すみません」 「グレンシア……」   「誰にも触れさせたくないのです。私の事だけを考えていて欲しい」  グレンシアの懇願に俺は彼の手を取ってキスを落とした。 「そんなの当たり前だろ」 「……直哉さん」  グレンシアの表情は少し緩んだが、まだ心配そうだ。なんとか説明できればいいんだけど……。 「さっきのは事故だし、それに……エルドには違う目的があったんだ」 「目的?」 「説明は難しいんだけど、この世界の構築についてだ」  グレンシアは首を傾げた。この世界の人にプログラミングが何かを説明するなんて難易度高すぎるんだよなあ!  英数字で書かれたコードっていう文字列があって、変数って言う箱の連なりでこの世界が出来てるんですよって、意味不明過ぎるだろう。  元居た世界でもプログラミングを学んだ事がない人に説明した所で理解してもらえないくらい難しい話だ。 「エルドは俺の居た世界を知っているのかもしれない。どこまで知っているのかはわからないけど……」 「そうだったんですか……確かに彼の出生は謎です。アルテッド親子が身元を保証して城に仕えてはいますが」 「アルテッドが認めているなら悪い奴じゃないんだな」 「そうですね」  アルテッドは相手の考えが読めるスキルの所持者だ。彼が大丈夫だと判断した人物が危険である事はまず無いだろう。けど、エルドがプログラミングを学んだ事があるのだとしたら、それは転移者の可能性を示している。  ……とはいっても、俺は元の世界に帰りたいわけでもない。何かの手掛かりを集めているわけじゃないし、この世界でエルドが悪巧みをするわけでもないのなら、俺には関係がない事なんだよなあ。 「まあ、いいや。エルドの目的はよくわからないけど、悪い奴でないなら忘れるよ」 「ですが、直哉さんにとって大切な情報を持っている人物なのでは……」 「もう関係ない。グレンシアが居る所に俺も居るだけだ」 「……本当にそれでいいのですか?」 「ああ、グレンシア以外いらないよ」  グレンシアは顔を綻ばせると俺を抱きしめた。  グレンシアは恋人を無理やり縛ったりできない人間なんだよな。どこまでも優しくて、感情的になったってあの程度だ。そんな彼だから、大切にしたいし傍に居たい。 「愛のかませ犬」  俺たちの横にジュリアが立っており謎の言葉を呟いた。 「ジュリア様、その呼び名はさすがにエルドが不憫なのでおやめください」  アルテッドのツッコミからして、蔑称なのだろうか? よくわからないが、ジュリアは本当に気が強いな。

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