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第37話 ゴブリンに捕まったんだが①
その夜は野宿なんだけど、むぅは枕にならず見張りをしてくれる気らしい。寝袋に入った俺たちのまわりをぐるぐる跳ね回っている。レベル200を超えたむぅが護衛なら安全も安全だ。
「すごい……星が綺麗だな」
異世界でも星はあまり変わらない。俺の知っている星座が見える。北極星もあるし、ここはパラレルワールドの地球なんだろうか? 北極星が見えるんだから少なくとも地球の北半球である事は間違いない。
「俺の世界と変わらない景色だ」
「空は繋がっているのでしょうか」
「そうだと面白いよな」
「ええ」
今夜、グレンシアとなにかあるかなーとか思っていたのだが、むぅが起きている所で何かは出来ない。ちょっと期待していたんだけど、俺は大人しく眠りについた。
翌朝、清々しい気分で目が覚めた。空気が澄んでいて、朝露の香りがする。俺は軽くストレッチをして、むぅがくれた果実を齧った。
キャンプ気分を出してくれているのか、焚き火に串刺しの魚を並べ、その上で米を炊いている。この世界にも飯盒ってあるんだな。キャンプで米を炊く時の定番だ。
「グレンシアって料理ができるんだな」
「料理、というかこれはサバイバル訓練で身に着けましたね」
「王子なのに?」
「……戦争が起きてしまったら、敵は人間かも知れないし、魔物かもしれない。王族といえども、どのような状況で戦う事になるか分かりません。それでも最後まで諦めずに戦うのが王族の務めですから……」
グレンシアは悲しそうな表情で焚き火を見つめている。今もゴブリンと一触即発状態だ。いつ、全面戦争になってもおかしくはないだろう。なんたって、向こうにはゴブリンの長ジアンがいる。
「あ、そろそろ頃合いです」
グレンシアは炊き上がった米を木の器に盛って、俺に差し出してくれた。焼き上がった大きな魚は平皿に3匹どーんと載っている。俺が朝からでも食欲があるタイプだと知っているから、豪華に載せてくれたのだろう。
「うわっ、美味そう! いただきます!」
遠慮なく塩焼の魚とごはんを頬張る。うますぎる。なにこのご馳走。最強すぎるだろ。
「あれ、この魚ってどうやって獲ったんだ?」
「電撃のスキルを川に放ちました」
「そ、そうか」
意外と豪快だった。
「あー美味しかったなあ!」
完食した俺を見て、グレンシアは嬉しそうだ。
甘やかし王子だからな、世話を焼いて喜ばれると嬉しいんだな。厚意には甘えておこう。
「近道もしましたし、あと3時間も歩けば街に着きます」
「もうそんなとこまで来てたのか」
「きゅいーきゅー」
むぅは残った焼き魚をもぐもぐ食べてご機嫌だ。グレンシアは後片付けも終え、荷物を背負って立ち上がった。
「私は少し先の方を見てきます。むぅ、直哉さんを頼みましたよ」
「きゅい!」
頼まれたむぅはグレンシアを見送ると近くで地面を突く鳥に夢中だ。ぱくっと、鳥たちを飲み込めば周りの鳥は慌てて飛び立つ。むぅは追い掛けて、ぽよぽよ飛び回る。むぅは遠くへ行ってあっという間に小さくなった。もう、青い点が跳ねてるようにしか見えない。
頼まれたばかりなのに、可愛いなあ!
「ちょっとまて、むぅが迷子になったら大変だ……!」
でも、グレンシアとはぐれても困るし……。
俺は立ち上がると、グレンシアが歩いて行った方向へ進んだ。でもな、よく考えたらわかるだろ? 森の中に突っ込んで、グレンシアを追い掛けたら、迷子になるって!
「迷子になった……25歳なのに、迷子……いや、これは遭難!?」
おとなしくキャンプ地に残れば良かった。グレンシアだって、すぐ戻って来ただろう。考えなしのアホで申し訳ない……!
「こういう時はむやみに動くんじゃなくて、じっとしている方がいいって言うよな」
かさっ!
「ひっ!?」
凶悪顔のオークと鉢合わせた。が、オークは蹄を返して森に消えていく。
「そ、そうか、俺215レベルだった! 俺より弱い魔物は襲ってこないんだよな」
むぅのおかげでチート能力を手にした俺。つまり、安全って事だ!
ギギギギギッ!
「ゴブリン……も、襲って来ないよな?」
俺は目の前のゴブリンにも恐れをなさな……いや、そういや昨日、ゴブリンに襲われてたよね!?
「!?」
俺はゴブリンに麻袋をかぶせられた。巣に連れて行くつもりかもしれない。じたばたと抵抗するが、視界が塞がれているし、俺の拳や蹴りはゴブリンに当たらない。持ち上げられ運ばれている感覚に焦りだけが募る。
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