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第43話 ゴブリンは獲物を狙う

 ――カンカンカンッ! 「ゴブリンだ! ゴブリンが、広場に出たぞ!」  食事が運ばれるのを待っていれば、突然の知らせで店内が大騒ぎになる。 「ゴブリンだって……!?」 「地下に、地下に避難しないと!」  客や店員も店を飛び出し避難してがらんとなった店内には、唖然としている俺と考え込んでいるグレンシアが残った。  むぅは食事が運ばれて来ない事に気が付き俺の膝の上で泣いている。 「むぎゅーぎゅうー」 「ぐ、れんしあ!? ゴブリンを退治に行かないと!」 「ダメです……」 「どうしてだよ!?」 「この街は普段、ゴブリンに襲われる事がありませんでした。今、ゴブリンの襲撃があったという事は、おそらくジアンが直哉さんを探しているのだと思います」 「まさか、考えすぎだろ」  ジアンが俺に興味があるとは思えないけどな。でも、ジアンの機嫌は損ねたし、目障りだから消しに来たって事はあるかもしれない……。 「直哉さんを連れて、ゴブリンと戦うわけにはいきません」 「この街が壊滅しちゃったりしたらどうするんだよ! 女性が攫われるだろ、それが俺のせいとか絶対に嫌だ!」 「ですが……」   「きゅいー」  むぅは俺に絡みついて、体を覆ってきた。 「むぅ……お前、俺の鎧に?」 「きゅい!」  むぅはさらにきらきらした魔法を発動させて、俺の周囲にバリアを張った。 「……むぅには敵いませんね」  グレンシアは俺の手を引いて、広場を目指し駆け出した。  戦場に向かう緊張感で、額が汗ばむのを感じる。本当にジアンが居て、俺を殺す気なら……グレンシアが無事で済むかさえわからない。  俺は、街の事ばかりでグレンシアが怪我をする可能性を失念していた。もし、最悪の事態が起きて、俺がグレンシアを守れなかったら、それは俺のせいだ。 「グレンシアっごめん……」 「大丈夫、何があっても守ります」  覚悟を決めて、こんな時でも笑えるグレンシアは本当に強い。  そうだ、杖!  俺は腰に着けた魔法の杖に触れた。  こんなにいい武器があるんだ。215レベルの俺とむぅも戦って、グレンシアと街を守るぞ。 『わかったよ! あるじ!』 「だ、誰?」 『むぅだよ』 「は!?」 「直哉さん、どうしました?」 「いや、今、むぅの声が」 「何も聞こえませんでしたが……」 『たたかうのたのしみだなあ~』 「念話か? むぅなんで急に……」 『あるじがあんしんするかなっておもった』 「むぅ……」  むぅが居れば、大丈夫だよな。ありがとう。 『うんっむぅがんばる』  俺が掛けたオールアップの力でグレンシアの行く手を阻めるゴブリンは居ない。奇声を上げる間もなく、ゴブリンが倒されていき、俺たちはそのまま広場へ走る。  オールアップをむぅにも掛けたら、俺の周りのバリアがもの凄くバチバチだ。  999の最大レベルが1人と1匹、強いのは間違いない。だが、ジアンが転生者なら強さは未知数。何が起きるか分からない以上、不安は拭えなかった。  ジアンの姿が見えて、俺の鼓動は跳ねた。決戦が始まるのか?  俺のせいで――。

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