44 / 70
第44話 従魔契約で英雄に!?
ジアンは一見普通の人間だ。耳がゴブリンで、緑色。だが、それだけでもゴブリンを連想し人々が逃げ出すだろう存在だ。
「そこの転生者、名は?」
ジアンと対峙した途端に名前を聞かれた。
「直哉だけど」
「職業は?」
「プログラマーだ」
「正社員か」
「そうだが」
「家族は?」
「姉と妹、両親と祖父母が居るが」
「友人は?」
「職場に仲のいい奴は居るけど」
「……我はお前が気に入らない」
「はあ!?」
訊かれた事に対して、ごく普通の回答をしたぞ。どの辺に気に入らない要素があったんだよ!
「同じ転生者であるのに、正社員で雇われて、姉と妹が居て、友人を作れる能力があるなんて……許せんのだ」
「え……」
そこに、嫉妬する要素あるのか!?
ただの社畜だし、姉や妹とも普通に喧嘩するし、友達って言っても休日遊びに行くような仲でもないんだけど!?
「このゲームは、我のような底辺が遊んでいるんじゃないのかぁ!?」
こ、れは。……職無し彼女無しだ。ジアンはいわゆる、高等遊民的な?
「いや、働かないで、ゲームしていられるとか高等遊民だろ」
「貴様、馬鹿にしているのか!?」
「そ、そんなつもりはないんだけど!」
プ、プライドが高いな……。何を言っても地雷を踏みそうだ。
「そこの王子はもはやリア充過ぎて腹は立たんが、邪魔をするならば殺す」
怒りを露にしたジアンは魔法を展開させる。グレンシアは阻止するべく斬りかかった。
ジアンは避けながら、闇魔法の剣でグレンシアへ攻撃をする。グレンシアは飛びのいて避けるが血しぶきが舞う。俺は残りのMPで回復魔法をグレンシアに掛けて援護した。
おそらく、オールアップのグレンシアとジアンは同格だ。
広場には、剣と剣のぶつかる激しい音が響いている。
「グレンシアを助けないと……むぅ、援護してくれ」
『すぴー』
「なんで寝ちゃったんだ……」
なぜか、むぅは俺の頭の上でお昼寝していた。むぅを手に取って見る寝顔はむちゃ可愛い、起こせない……。
ぽわっ!
「あれって……」
俺の作った幸運の押し花がグレンシアのリュックからふわっと出て来ると、塵になった。
すると、グレンシアの一太刀がジアンを貫いたのだ。
俺が作った幸運の押し花すごいアイテムだったんだな!?
「がはっ……くそ、このような、きらきらとして、我より強い王族など皆殺しだっ」
負けたジアンは負け惜しみに転移魔法で城へ移動したようだ。急いで馬車を走らせても間に合わない。
『むにゃ……はっ! ごはん!』
「むぅ、ごはんは後だ! 今すぐ城へ行かないとジュリアが死んでしまう!」
『! まかせて、あるじ』
むぅは俺たち2人を食べるとそのままぼよんと飛んだ。
ぼよんとジャンプしながら長距離の空を飛ぶ。むぅの中には空間が出来ており、俺とグレンシアはその中で呼吸ができる。しかし、下半身はむぅに飲み込まれて固定されているのだ。
ジェットコースターなんて遊びだというくらいの超絶絶叫マシンなのは間違いない。
「うあわああああっ!?」
「こんなふうに空を飛べるなんて! すごいです!」
「グレンシアッ! なんで平常心ッ!?」
「感動してしまいました!」
「イヤイヤいやッ!? うわああああっ! ぎゃああっ!?」
ぺいっと、むぅが俺たちを吐き出したのは謁見の間だ。
「頭がぐるぐる……回る……」
「父上!」
国王の首を飛ばそうとするジアンの剣をグレンシアが止めた。
――シュバアアッ! ……ドサッ!
ジアンはグレンシアに切り捨てられ倒れると、悔しさを滲ませる。
「くそっ……我はこの世界でも弱き者なのか……」
「おい……ジアン、別に高等遊民だからって弱いとかじゃないだろ」
俺はふらつく足でジアンの傍へ行き話しかけた。
「……そうやって甘い言葉をかける人間はロクでもないのだ」
「別に俺は損得で言ってるんじゃなくてさ、俺がそう思うよって事だぞ」
「かはっ……憐れむなら好きにしろ……だがな、我は誰の役にも立たない人間だ。家族に見放されて、社会でも我の代わりなどいくらでもいる。暮らすのがやっとの金だけ稼いで、寿命が来るだけの人生だ。お前の言う通り、我は国の世話になっているニートだぞ……」
「……」
「この世界に居れば変わるだろうと思った。気軽な気持ちでこの世界に来た。なのに、この世界の判定により我は奇しくもゴブリンだった。転生しても誰からも必要とされない異形の存在だった。……我はどの世界でも嫌われ者の必要とされない人間……。いやもはや、人間ですらないがな」
「それは、どの社畜でもあり得る事だ。俺だって他人事じゃない」
俺は隣町で手に入れたMP最大値アップのポーションを飲み、ハイエーテルで一気にMPを最大値に回復させた。
「何をしている……そのような戯言を言いながら我にトドメを刺すのか」
俺はジアンと獣魔契約を結ぶ為に魔法を発動させる。
「!?」
そして、彼に回復魔法を掛けた。
「好きな所へ行けばいい」
「……どういう事だ」
「ジアンは俺の従魔だから、犯罪行為はしない事! あとはさ、自由に過ごしていいし」
「……」
「誰かに必要とされるだけが人生じゃないって俺は思うよ」
俺の言葉をどう受け取ったかはわからないが、ジアンは無表情で立ち上がる。
「従魔となった我はもうゴブリンの長ではないだろう。奴らは己の欲のまま襲撃を始める」
そう言い残しジアンは姿を消した。
「直哉さんが……ゴブリンの長を……」
「そこの者、大儀であった」
唖然とするグレンシアの後ろで国王が俺を褒めてくれているが、なぜだ? よくわからないが、俺は国王に頭を下げた。国王の隣に異世界人嫌いの宰相ディアドが居る事に気が付いて、俺は少し固まっている。ディアドは俺に一礼した。
「国王の命を救い、ゴブリンの長を手中に収めるとは、お見事」
別人かなって思う態度のディアドに戸惑うが、同じく国王の傍らに立つアルテッドが説明してくれる。
「父上は直哉殿が国の為に行動した事について評価なさったのだ。圧倒的な成果を出した者を評価出来ずして、上には立てない」
アルテッドとディアドって親子!? 確かに似てる。第一印象最悪な所が……。
「失礼な奴だな!」
「こら、アル!」
「うっ、失敬……」
アルテッドがお父さんに叱られた。でも、ジアンを倒したのはグレンシアだし、従魔にしたのがそんなにすごいのか?
「直哉……お前な、ゴブリンの長は最大レベルだぞ……ましてや大将の首を落としたどころか、味方に引き込んだのだ。これはものすごい功績だ」
「な、なるほど!」
そして、国王は高らかに俺を英雄だと宣言した――。
ともだちにシェアしよう!