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第45話 貴方以外考えられない
その夜、俺を讃える宴が開かれる事になってしまった。その準備中、俺はグレンシアの部屋でそわそわしている。
『あるじーどうしたの?』
「いや、落ち着かなくて」
「直哉さんはすごい方だと、私からも申し上げていたでしょう?」
「いや、本気に出来ないよ!」
なぜか、とんとん拍子に俺は国の英雄だと祭り上げられる事になったんだぞ!? 国王陛下が、英雄だと宣言しちゃったんだからなっ! 何がどうなっているんだ!?
「なんか、あっという間に意味の分からない展開に巻き込まれているような」
「直哉さんは……私と結婚する気がないのでしょうか……」
「え?」
そうか、王子と結婚するなら英雄だの爵位だのと祭り上げられるくらいじゃないとダメなんだよな。
「いや、グレンシアと一緒に居られるのは嬉しいけど、俺はただの一般庶民で何の力もなかったから、すぐに馴染めない環境というか! グレンシアの事は真面目に考えてる。結婚だって、い、いつかは……もしかしたら……もしかすると……だし」
グレンシアはちょっと悲しそうだ。結婚に対する甲斐性の無さを指摘されているようで、ぐうの音も出なかった。
とはいえ、考えなしに未来の妃にはなれないよ?
『どうしてぇ?』
「責任とかあるだろうし、大変な立場だし……」
『むぅはぐれんしあおにいちゃんといっしょにいたいなぁ』
むぅの可愛さに胸をずきゅんと撃たれた。
た、確かに、一緒に居たいだけで充分なんだよな、結婚する理由なんて。
「でも、俺なんかが妃になったら国が傾くかも……」
「! 何があっても私が建て直します」
「っグレンシア!?」
急に手を握られて驚いてしまった。グレンシアは俺の手を両手でぎゅっと包んで、俺の目をまっすぐに見ている。
「あ、ありがとう……でも、俺なんかじゃ」
「直哉さんより優れた妃は居ません。むしろこの国を想えばこそ直哉さん以外ありえない」
強い口調で、はっきりと言われて俺はたじたじだ。
ただのアラサー社畜が何をどうしたらこんな事になるんだ!?
「う、嬉しいよ。そこまで言ってもらえて」
「……そろそろ、参りましょうか」
グレンシアはそれ以上何も言わなかった。俺が自分で考えて決められるように、いつも距離を置いてくれる。
そんなグレンシアの背中を愛おしく感じて、俺は後ろから抱き着いた。
「!?」
「グレンシア、好きだ」
「直哉さんは悪戯がお好きですね」
「素直な気持ちだぞ」
グレンシアが王子である以上、一緒に居るには俺が覚悟をするしかないんだよな。
この世界が平和を取り戻した時に、ちゃんと伝えよう――。
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