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第53話 俺だけの想い人です① ※ちょいいちゃらぶ
「ずいぶん長い散歩でしたね」
「いやー、迷子になっちゃいまして!」
グレンシアの嫌味を難無くかわすエルドは帰りに買った夕食をテーブルへ並べる。パンと惣菜に林檎だ。アルテッドの前にだけ、芋の入った蒸しパンを置いた。
アルテッドは何も言わずに蒸しパンを齧っている。好物なのだろうか……?
グレンシアもご機嫌の悪いままバケットを齧る。
「殿下たちお行儀悪いですよ。何がそんなに気に入らないんです?」
まあ、普通は手で千切るよね。そのままはむはむ食べちゃうくらい他に気を取られているのかな。この2人は俺とエルドが出掛けた事をそんなに気にしているのか……。
「別に、好物だから丸かじりしているだけだ、ここは城じゃないし。父上にも怒られない……」
アルテッド、めちゃくちゃ拗ねてるじゃん……。
「芋蒸しパンは美味い」
「殿下、何もつけないでバケット齧られると怖いので、バターでもいかがです?」
「……」
グレンシアも重症だ……なんかこの2人が年齢相応に見えて可愛い。やっと俺が年上だと思えたんだけど!
ははっ! 20歳って可愛いな! よかった、俺25歳!
アルテッドが突っ込んでこないな……。
グレンシアもアルテッドもはむはむと食事をしている。ただひたすらに拗ねながら。
食事も終わって食休みもしたし、湯浴みがしたい。この宿には風呂が無く、桶に水を入れて布で体を洗うらしい。ファンタジー世界の宿って感じだ。俺はすごくやってみたいんだけど、グレンシアがもっと拗ねちゃうだろうし、我慢なのか……。
「別に、清拭くらいすればいいだろう」
そう言って、アルテッドがシャツを脱ぎ始めた。
エルドが桶の準備をして、水魔法と火魔法でお湯を入れてくれる。アルテッドは布で、体を拭きだす。そうか、上半身だけ脱ぐのかあ。なら、俺も脱ごうかな。
「直哉さん、何をしようとしているんですか」
「体を拭きたいんだけど……」
「……そうですか」
なんか悲しそうにむぅを撫でているグレンシアが可愛くて、脱げない……。
「よっと」
エルドも上半身を脱いで、体を拭いだした。
戦ったしさ、歩いて汗もかいたし、このまま寝るの嫌なんだけどなあ。でも、仕方ないか。
「! そうだ、直哉さんの体は私が拭いて差し上げます」
「へ!?」
グレンシアの発言にアルテッドとエルドがビクッと反応する。同じ部屋で主が楽しみだしたら大変だもんね、うん、わかるぞ。めちゃくちゃ大変だ……。
「いいよ、自分で拭けるし!」
「服は脱がなくてもいいですよ、私が手を入れますから」
「で、でも、俺、汗かいてるからあまり近付いてほしくない……」
「私は気にしません」
「う、うん……」
様子を窺って固まっているアルテッドとエルドには申し訳ないが、両手を広げてお願いしてくる恋人が可愛くて断れないっ!
グレンシアはむぅをぽよっとベッドに置いた。むぅは泣き疲れたせいか少しぺちゃっと潰れながら寝息を立てている。
むぅの様子を確認して、俺はグレンシアの膝に座った。すぐに抱き締められるような形で後ろから包まれ、小さな桶に入れたお湯と布で、俺の体は拭われる。
優しく肌を撫でられる感覚に、次はどこを拭かれるのかドキドキしてしまう。感じてしまったらどうしようかと、焦れば俺の体はどんどん熱くなった。
「っ!? そこは拭かなくていい」
「わかりました」
少し笑った気がする。グレンシア、わざとか!?
この状況で、アルテッドとエル……あれ? 2人が居ない。部屋を出て行ったのか。気を遣ってくれたのかな?
うう、申し訳ないな……。
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