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第54話 俺だけの想い人です➁ 『エルドSIDE』 エルド×アルテッド
――『エルドSIDE』
「殿下と直哉様も遠慮がないですね」
「……」
「アルテッド様?」
人通りもない夜の街へ散歩に出た。さすがにあの2人も一晩中あの調子じゃない、しばらくしたら戻ればいいだろう。
おかげ様というか、俺としてはアルテッドと久しぶりに話せる事が嬉しい。
……のだが、俺の心など手に取ってわかるアルテッドは、口を利いてくれない。
「アルテッド様、何か言ったらどうです?」
彼は顔を赤くすると、難しい顔でそっぽを向いた。俺のせいなのは知っている。
俺も、アルテッド様の体を拭いて差し上げたかった。
「っ!? この変態が!」
「やっと喋ってくれましたね」
「どうしてお前はいつも!」
「いやー俺も男ですからねえ」
「なら、女でも追いかけていろ」
そっぽを向いて怒っているアルテッド様は、たぶん俺が浮気をしたら嫌なんだと思う。
「全くもって、そんな事はない、付き合ってないっ!」
「素直じゃないですねー……あ」
道に灯りが見える。冒険者向けに遅くまでやっている食べ物屋のようだ。俺は買って来た棒状のアイスをアルテッドに渡した。
これを食べているアルテッド様は絶対に可愛い。
「……恥ずかしい事ばかり考えている変態が!」
「男なんて皆そんなもんだって知ってるでしょ」
「私を対象にするな!」
アルテッド様以外でそういう事を考えていれば不機嫌になるし……。どっちにしてもアルテッド様は怒るんですよね。
「こ、心で会話を試みるな……私は全くお前の心の声など気にしていない」
「へー」
……。
「……」
アルテッドは頬を赤らめて俺を見ているが、すぐにそっぽを向いた。俺は頭の中でこれからどうしたいかを考えたのだ。俺の想い人は目を伏せがちにして、思案している。俺の気持ちに応えてくれるのだろうか?
俺も、アルテッド様の心が知りたいですよ。
「――そんなこ……」
そんな事になったら、俺が好きだってバレちゃいますからね。
彼が言いかけた言葉を心の声で当ててみせた。多分、最後まで言う気ないからなあ、アルテッド様は。
「アイスは貰っておく」
「1人で夜道を歩くのは危ないですよ」
「私は男だ」
早歩きで俺から逃げようとするアルテッドを追い掛けて、前に回り込んだ。
アルテッド様は美しいので!
俺は両手を開いてアルテッドに向けた。飛び込んで来てくれるとは思わないけど、反応が可愛いからな。
「っ……別にお前の為に気を遣っているわけじゃない」
最近いい匂いがするのは俺の為ですか。
「違うっ!」
彼は慌てながら真っ赤になって否定している。想い人の心を、俺は知る事が出来ない。
でも、表情や仕草で、読み取れる。
あと1歩近づけたら、一線を越えられるんじゃないかって――。
「越えられるか馬鹿っ!」
「ぐはっ」
アルテッドの拳で腹を殴られた。
よく考えると、心が全部丸見えって、良い雰囲気で口説き落とせないんじゃ……。
――この恋の難易度、高過ぎじゃないか!?
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