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第58話 俺の手料理を振舞う
朝食を済ませた後、店の厨房をお借りする事になった。店を貸し切りにしたらしいんだけど。
いくらかかるんだ!?
俺なんかの料理を食べる為に何枚の金貨を使ったんだよ! とは思うけどさ。
グレンシアの気持ちは素直に嬉しい。食材を眺めながら、ちょっとにやけてしまう。
「で、私は何をしたらいい」
すっかり目が覚めたアルテッドは料理を手伝ってくれるらしい。
「じゃあ、玉ねぎをみじん切りにしてくれ」
「この野菜の事か。これは、ツヴィーベルという名だ」
なぜ、ドイツ語なんだ……。
「お前の世界には、どいつ……という言語があるのか」
「アイテム名はみんなドイツ語なのかな……鶏肉は何て言うんだ?」
「鶏の肉はポヨだ」
「鶏肉はスペイン語、つまりアイテム名は適当だな……さすがエロゲー世界だ」
「その、えろげーってなんだ」
「!? そういうゲームだよ、チェスみたいなやつ」
「そうか、よくわかないが、まあいいだろう」
俺は何も考えない……! 無心で鶏もも肉をミンチにするぞ!
みじん切りにした玉ねぎと挽肉に片栗粉と卵、塩コショウを入れて捏ねる。片栗粉があるのは謎だな。さすが転生者の厨房! ってとこかな。
冷蔵庫で冷やして、丸めて潰して形を整えたら焼く。
じゅううううっ!
おお、なんか久々に料理してる感が! 跳ねる油に熱々の音を聴くとテンション上がるなぁ。
「スープはこのような感じか」
「うん、あとは味噌を入れたら味噌汁だ」
「この厨房は見た事の無いもので溢れているな」
「珍しいのか?」
「異世界の物ばかりだろう」
「ほう」
俺にとっては当たり前の食材や調味料ばかりだけど、そうか本当にビジネスチャンスなんだなあ。グレンシアに頼んで出資してもらおうかな? なんて、さすがに厚かましくて頼めないな……。
「ならば、私が出資してやろう」
「え?」
「殿下から自立したいのだろう?」
「で、でも」
「きっちりと利益配分は貰うからな」
「アルテッド……お前、ほんといい奴だなあ」
「ほら、ハンバーグが焦げるぞ、さっさとソースを作れ」
「ああ! 焦げる!」
アルテッドと作ったのは鶏肉の和風ハンバーグと味噌汁。米も炊いたからほぼ和食だな。ハンバーグの付け合わせはほうれん草の胡麻和えだ。
さすがに、冷蔵庫に白だしがあるのには感動したな。
というか調味料のパッケージが俺の世界の物なんだけど、商品を持って来るスキルがあるのだろうか?
「この、胡麻和えという料理、なんだこの旨味と香りは……」
「わかるぞ、味見しだしたら止まらんよな」
白だしといりゴマは相性抜群だ。
アルテッドは味見と称して、俺の料理をどんどん口に運ぶ。甘い物以上に美味しそうに食べているから、嬉しくなった。
「……!」
グレンシアとエルドが待つテーブルに料理を置くと、グレンシアは物珍しいのか目を見開いて料理を眺めている。一方のエルドは懐かしい和食に表情を綻ばせた。
「とても美味しそうですね」
グレンシアはナイフとフォークでハンバーグを丁寧に切ると、口へ運んだ。きっと、白だしの香りが鼻を抜けて、肉の旨味が舌に広がっているだろう。散らした小ネギもいい仕事をするんだよな!
「美味しいです……! 直哉さんの料理は絶品ですっ!」
「あ、ありがとう。照れるな」
恋人に料理を振舞うという人生で初の経験をしてしまった。俺はなんか落ち着かなくて、手でむぅをこねくりまわす。
「味噌汁はアルテッドが作ってくれたんだけど、俺の故郷のスープなんだ」
「これは、味わい深いですね」
「味噌汁のネギを切ったのは俺だ、この白いのと緑色のやつ」
「直哉さんが切ってくれたと思うと数段美味しいです」
「は、恥ずかしいな……でも嬉しいよ」
この恋人同士の会話がこそばゆくて、むぅをむちゃくちゃに揉みしだく。
か、顔が熱くてどうしようもないぞ!
『うわああ、あるじ、めがまわるよおおぉ』
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