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第61話 愛の告白は包み隠さず 『アルテッドSIDE』 エルド×アルテッド ※えちぴんち!?
今日は、温泉で手を繋いでいた奴の思考が煩かった。
『アルテッドの手、やわらかいな』
『指も細くて、綺麗だ』
『爪も手入れしてある、女子力が高いな』
じょしりょくってなんだ!? よくわからないが、馬鹿にされている気がする。
心の声は意図的に遮断も出来るが、ずっと誰かと居れば自然と声が入ってきてしまう。息抜きに人通りが無い夜道へ1人で散歩に出た。
月が綺麗だ。あの月もエルドが作ったのだろうか。
私やこの世界のすべてが作られた物というのは、さすがに受け止めきれない。
エルドが隠す秘密を知っているのは私と直哉だけだろう。
人の心を知る事ができるスキルを持った私は、エルドの心を見聞きして向こうの世界の事をたくさん知った。
この世界を作り、向こうの世界で事件を起こしてしまった事で、エルドが苦しみ悩んだ事も知っている。
そして、私が。
彼にどんなに想われているかも知っているのだ。
「私は……」
想われるなど珍しい事ではないし、下心なんて嫌というほど持たれるが。
澄んでいる。
この世では下劣で卑猥な考えなど、珍しくもない。なのに、エルドは私に対して一度も下衆な事など考えて来なかった。
私が美しいから好きなのではなく、私だから美しいと思ってくれる。
体が欲しいのではなく、私だから触れたいと願う。
――それは物語に出て来る純愛だ。
人の心を知れば、おとぎ話のくだらなさを嫌というほど味わうのに、純粋に私を愛してくれる人がいるなんて今でも信じられない。
目を閉じて手を開けば、そのままこぼれ落ちて消えていくかのような儚さを感じる。
いつか、私の手の届かない場所へ行ってしまうのではないかと、本当は不安でたまらない。
エルドには帰る場所があるし、私の命やこの世界など、いつ消えてもおかしくない代物なのだから。
「いつ別れが来てもおかしくない……」
「ヒクッ……なあに、恋人と別れたの?」
酔っ払いか……。
この冒険者、温泉で私に無礼な発言をした奴では。
「!」
腕を掴まれた! ――っ!
「離せ! 無礼者がっ……私は王家の血を引く貴族っあ!」
ドンッと壁に叩きつけられた。路地に引き込まれた上、暗くて男の姿すら見えない。それをいい事に男の手が私の体に触れる。どこに何があるか確かめるように這う手の感触にゾッとした。
暗闇の中、逃げ出そうともがくが足元に瓶や箱が捨てられているのか、足を動かせば転倒してしまう。どんどん身動きが取れなくなって、抵抗も出来ない。いくら正当防衛でも、この程度の被害で魔法を放ち怪我をさせれば罪になる。
触られる事を我慢するのも嫌だし、日が昇るまでこの男と一緒に居るなんて絶対に御免だ。
しかも、男が自身のモノを扱き始めた事に気が付いた。私を襲う気か!?
「エル、ド、助けに来い! エルド!」
宿屋まで声が届く事などないのは分かっている。
でも、おとぎ話の恋人はきっと駆け付けてくれるから……だから――。
「……エルドッ!」
ボワッ!
灯りがついた。炎の魔法だ。オレンジ色の光に照らされた想い人は私に微笑んだ。
「迎えに来ました」
エルドは酔っ払いを蹴り飛ばすと、私に手を差し伸べる。
「エルド、遅いぞ!」
「次はもっと早く呼んで下さい。いつだって、探してるんで」
「っ――!」
私が抱きつくと、彼は私を抱きしめるべきか迷う。宙に浮いた両手は、ゆっくりと私の肩に置かれた。
「アルテッド様、怖かったんですか? 俺と恋人で居ないからですよー」
「……」
「恋人のふりを続けた方がいいと思うんですよね」
『俺の事を好きになって下さい』
「アルテッド様が嫌じゃなければでいいんですけど」
『俺の傍に居て欲しいんです』
「なるべく一緒に行動しましょう、ほら手を繋いで」
『俺の恋人になって』
「俺に下心はありませんから」
『愛して下さい。俺はもう、たまらないほどアルテッド様を愛しているので』
っあああ!
もう、黙れこの! 恥ずかしい奴がッ――!
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