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第63話 この先には結婚がある② 『エルドSIDE』 エルド×アルテッド ※きす

 ――『エルドSIDE』  言えなかった――。  言ってはいけないと思った。  身元不詳の俺では、アルテッドと婚姻を結ぶ事はできない。しかし、貴族が一生独身でいれば周囲から不審がられてしまう。身分がある限り、いつかは誰かと結婚するんだ。  俺に寄り添い眠ってくれた、彼を守りたいと心から思った。  でも、それは叶わない。  悔しくて、虚しくて。プログラムを書き換える事が、頭を過ってしまう。  ――だが、それをしてしまえば、アルテッドを殺す事になる。  書き換えられた彼はもう、彼ではない。  自分の欲の為に、愛する人を壊す事はできない。だが――。 「隼人さん」 「!」  1人、廊下で考え込んでいた俺は顔を上げる。俺の本名を呼ぶ人間は1人しかいない。 「直哉さん、どうしました? もう、お忘れになったかと思ったのに」 「いや、思い詰めているんじゃないかと……」  ここには俺たちしかいない。本音を言っても構わない。だが、この気持ちを打ち明ける事はできないと思った。 「いや、推しが結婚しちゃうとか普通にある事じゃないですか、相手も人間ですし」 「そういう気持ちじゃない気がしたんですよ」 「……というと?」 「チートが出来るのに、しないって結構ソワソワするっていうか……なんか辛くないですか? だって、欲しいものが手に入る方法を知っていてそれが出来るのに」 「いや……」 「隼人さん、神様だし、いくらでもこの世界を書き換えられるし、失敗したってノーダメージじゃないですか」 「そんなこと……」 「チートしなくても、手に入るかもしれないアイテムがあったら、ちゃんと遊んで手に入れた方が楽しいんですよ! どうしても手に入らなかったらチートすればいい。ゲームで遊ぶ前からチートをしたら面白くないし、それは制作者に敬意が無い事ですからっ」 「……世界を書き換える前に、アルテッドを攫う勇気を持てって言いたいんですかね、直哉様は」 「う……エルド、がんばれ」 「……はい」  この世界に現れたチート能力の彼は、俺なんかの為に必死で意見をぶつけてくれた。  ひょんなことから、いい友人が出来てしまったなと、思う。  だけどね。俺の勇気なんてのは日本に住むただの社会人、趣味でゲーム作っているオタク程度のものですよ。異世界で、神様になったって愛する人1人攫う勇気すら持てない。そんなん当然だと思う。    けど――。 「アルテッド様……いらっしゃいますか」  彼の部屋のドアをノックした。  アルテッドは息を呑んだ顔でドアを開けて、俺を見つめた。  部屋に入った俺は彼に跪くと、ただ真剣な想いで懇願を口にする。 「俺の恋人になって欲しい」 「……エルド」 「そして、一緒に逃げてくれませんかっ」  アルテッドは膝をつき、跪いた俺の首に手を回して泣き出した。……俺はその背中をそっとさする。  俺が考えた邪な事も、俺の葛藤も全てが伝わってしまう。 「……それでも、お前がいい。私にはお前しかいないっ」 「アル以外の全てを書き換えたとしても……必ず守ります。貴方の為なら、どんな禁忌も犯しましょう」 「いい。ただエルドが傍に居てくれたらそれでいい。居なくならないと約束してくれるだけでいいんだ」 「もちろんです。ずっと傍に居ます。俺は貴方だけの騎士だ」  ――今夜は、貴方を愛したい。 「愛してほしい。ずっと、傍に居るのだと信じられるように、愛してくれ」  俺は彼の頬を撫で、触れるだけの口付けをした――。

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