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第69話 第2の人生が始まりますっ!
◇
「エルドさんって恋人はいるんですかぁ?」
「結婚していますよ」
開店したばかりの新しいカフェで俺たちはせっせと働いている。
俺がアルテッドの出資によりカフェをオープンした時から、エルドは暇があれば手伝いに来てくれるのだ。
まだ人を雇う余裕はないし、助かっているんだが……。
「ほんとだぁ~! ざんねーん」
どう考えてもエルドの結婚指輪に気付いているのに、エルドにフリーか尋ねる女性客が後を絶たない。
「女性って怖いなぁ……!」
「むぅはおねえさんすき」
むぅはあれからレベルをどんどん上げて、300レベルに到達。ついに人型になって店員として働いてくれるまでになった。
まあ、3歳児くらいの大きさだから、重いものは持てないし、店員というより看板猫ならぬ看板スライムだ。
女性客に揉まれてむぅは楽しそうにしているし、お客さんも幼児スライムが可愛くてテンションが高い。
「我はお前の従魔になってよかったぞ」
俺の従魔ジアンはこの世界最期のゴブリンだ。耳以外は普通の人間で、身長も高く顔が整っている為すっかりイケメン店員として女性客にモテている。モテ期が無かったらしいジアンはあの過去が嘘かのように生き生きと楽しく暮らしているのだった。
「なんか、ほんと平和だなージアンを恐れて男性客が寄り付かないけど……」
女性は強いので、イケメンパワーでゴブリン要素を無視できるらしい。男性客はゴブリンが怖く店に入って来ない。
グレンシアやアルテッドが店に顔を出す事も女性客が絶えない理由だろう。
でも、今までゴブリンの脅威に怯えていた女性たちがたくましく楽しそうに生きている。イケメンだオシャレだスイーツだとわいわいきゃっきゃとしている様子は素直に嬉しい。
「エルドさん、私って意外と従順で何でも言うコトぉ聞いちゃうんですよぉ」
「へえぇ、そうなんですねぇー! じゃあ、悪い男性には気を付けてくださいね」
……まあ、たくましすぎて普通に怖い。既婚者だと分かってもぐいぐいといくもんね! グレンシアが誘惑されてないか心配だな。
エルドは持ち前の社交性で女性からのアプローチを無難に避けまくっている。マシンガンで撃たれまくっているのに全部避けているかのような華麗な腕前だ。隼人さんは俺やジアンと違って、元の世界でもモテていたんだろうなぁ。
俺はフツメンなのでたいしてモテない。黒目黒髪は男性限定でしかモテ効果がないらしい。黒目黒髪を使って男性客を呼び込みたいが、嫉妬深いグレンシアの手前もあるし媚びを売るわけにもいかないからな。
そんな俺はエルド情報を聞き出そうとする女性客に捕まって対応に追われている。高身長と高収入はどんな世界でもモテるらしく、エルドが貴族で魔法騎士団長だと客にバレたのを皮きりに、人気はうなぎのぼりだ。
「俺、女性不信になりそう……」
「我は女なら何でもいい」
ジアンは中身こんなんなのにイケメンだから許されているんだ……。どんなクズでもイケメンで身長が高いと許しちゃう女性は一定数おり、固定ファンと楽しそうにいちゃついている。
ここはそういうサービスの喫茶店じゃないんだけどな!
何はともあれ、経営は順調だ。かなり大変だけど、この世界で自立できそうな気がしている。
「エルドさん私と結婚して下さい」
「ごめんなさいっ! 俺にはもったいないですよ。必ずもっといいご縁がありますからっ」
まあ、エルドが一番大変だけどね! よく手伝いを続けてくれているなって頭が上がらないよ!
毎日、目が回るようなカフェ運営だ。今日もくたくたに疲れた俺は、店の2階で休む事にした。
……グレンシアと婚約しているのになかなか一緒には居られない。
王子の仕事と、俺のカフェ運営の仕事で、休日もすれ違ってばかりだ。
従魔と友人の助けがあり、なんとかやっているけど時々寂しい気持ちになる。
グレンシアから自立するとは、一緒に過ごせる時間が減るという事だった。思っていた以上に辛く感じる時がある。
エルドだって、アルテッドと過ごす時間が減るのに友人として手伝ってくれているのだ。
俺が弱音を吐いていいわけがない!
「グレンシア……」
それでも彼に届かない言葉を口にし、俺は寂しさで溺れそうになっていた――。
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