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第73話 驚き過ぎて声が出ないかと思った③

「直哉さん、ごめんなさい……。私が働ければいいのですが、この世界では身分が証明できないとお金を稼ぐ事が出来ないという決まりがあるようでして……エル……いえ、隼人に迷惑を……」  しまったと思って俺は手で口を押さえる。  俺はせっかくグレンシアと再会できたのに、会って早々文句を言ってしまった……。 「グレンシアたちについては私が責任を持って面倒を見ますし、直哉さんは難しく考えないで下さいね?」 「……隼人さん、ありがとうございます」  グレンシアの事は隼人さんに甘えるしかない。  眉を下げ、悲し気に落ち込んだ様子のグレンシア。俺は冷静になって反省をした。  お金については、この世界でグレンシアと暮らす時に話し合えばいいんだよな。 「ごめんな、グレンシア」 「いえ、いいんです。私に遠慮が足りませんでした。こちらのお金について学ぼうと思います……」  こっちの世界でのグレンシアは不安げだ。それもそうか、異世界だし……。ただ楽しく会話がしたかっただけなのに贅沢するなって怒られたら、悲しくもなるだろう。  俺は申し訳ない気持ちになっていた。しかし、しゅんとしたグレンシアを眺める事しかできない。    ――グレンシアは異世界で俺に優しくしてくれたのに、俺はこっちへ来たグレンシアに優しくできなかった……。  ふるふるふる。 「ど、どうしました?」  泣きそうな俺を見て、グレンシアが驚いている。背中に手を当てさすってくれた。 「ちょっと、自分が不甲斐なくて……ごめんっ」 「直哉さんが落ち込む必要はないですよ。どうか、笑顔で居て下さい」 「ううっ……グレンシアっ」  どの世界に居ても、変わらない。目の前のグレンシアは、俺の好きなグレンシアだ。  ぎゅっとグレンシアに抱き着いて、髪に頬を寄せた。シャンプーの匂いが違うのに、グレンシアの香りがする。  ここも夢かもしれない。そんな思いを抱きながら、手探りで愛する人の存在を確認した。 「ここにいるんだな」 「いますよ」  今度の夢はどうか冷めないで欲しいと、心から願った――。

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