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第80話 俺はいたずらを疑わないけど②※かぷがいせくはらちゅうい
俺は半分夢の中のように感じ、何とか目を覚ましたくてシャワーを浴びに部屋を出た。
まだ朝5時だ。起こさないようにと思って、音を立てずに風呂場へ。戸を開けると、そこには服を脱いだ隼人さんがいた。
「ご、ごめんなさいっ! わざとじゃなくて!」
「落ち着いて下さい。男同士ですから」
「!」
言われてみれば俺はなんで慌てているのだろうか。異世界に行く前なら、グレンシアと愛し合う前なら、全く慌てていなかっただろう。ちょっとごめんって言うだけの事なのに、言い訳までして男性が性的対象みたいな奴になっているじゃないか。
グレンシアの事は愛しているけど、俺は男性が好きな訳でも性的な対象と言う訳でもない。
恥ずかしい反応をしてしまったと、俺は少し反省をした。
「なんか、感覚がおかしくなってました。俺もシャワーを浴びていいですか?」
「もちろん。シャワーは2個ついていますから」
シャワーを2つ設置する意味って一体……。お金持ちの思考は分からないな。
俺は服を脱いで、洗濯かごへ入れる。昨日買った服を着てたけど、この後の着替えがない。
「着替えなら大丈夫ですよ」
「え?」
「あまりお気に召さないかもしれないんですが、無いよりいいと思ってこの棚に。アルも使うので複数着あります。好きなのを着てください」
「ありがとうございます」
棚に置かれ畳まれた服をパッと見た感じ、シャツと……ズボンだよな。有り難く着させてもらおう。
ずるっ!
「っは!」
「大丈夫ですか」
浴室に一歩踏み出し滑った俺を、予測していたように隼人さんが後ろから支えてくれた。
「この物件は風呂場のタイルが大理石なんです。豪華ではあるのですが、滑りやすく危険なんですよ」
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
2人とも裸の状態で後ろから抱きしめられている。他意は無いと分かっていても落ち着かない。
「もう大丈夫ですから」
「気を付けてくださいね」
隼人さんは俺を放して、シャワーへ向かった。確かにこの風呂は広くて豪華だ。湯船も小さめの温泉のようだし、シャワーが2つ並んでいても広く使える浴室。危なくても大理石を使いたくなる気持ちも分かる立派なお風呂だ。
俺は滑らないように注意しながら、シャワーを浴びる。少し横を向けば、隼人さんのバキバキの腹筋に目を奪われた。
隼人さん、あっちの世界では騎士団長だった訳だし、厳しい訓練をして実戦で戦っていたんだよな。
こっちの世界ではそう見ない程にたくましい戦う男の体だ。羨ましいような、憧れる様な気持ちでじーっと見てしまっていた。
「私の体に興味が?」
「! ち、違います」
「冗談ですよ」
な、何か話をして話題を逸らさないと!
「あ、あっちの世界では魔法剣士みたいな感じだったんですよね」
「ええ、剣と魔法で戦っていました」
「どんな仕事をしていたんですか?」
「あの世界の騎士とは警察組織であり、軍のような仕事もします。基本的には訓練をするのが日常です。何か起これば出動し、悪事を働く者を粛正したり、魔物から村や町を守るとか、名誉な仕事としては王族の警護……とかですかね」
「かっこいいですね」
「いや、私はもうただのフリーランスですよ」
「こっちの世界でも戦う必要とかあったら、隼人さん強いんだろうな」
「この世界に来たのは私たちだけだと思ってはいますが、もしゴブリンでも湧いたら私が粛清してやりましょう」
「ふふっ、隼人さんがヒーローになっちゃいますね」
「直哉さんはオールアップ担当なのをお忘れなく」
「そ、そうだった!」
隼人さんがエルドだった時から楽しく話す仲になっていた。カフェの仕事終わりに親しくしていたし、彼は距離の近い俺の友人だ。グレンシアはやきもちを焼くんだけど、隼人さんにはアルテッドがいるし、心配する必要なんてないんだけどな。
「俺は戦いには向かない体だから、支援しかできないけど」
「私は好きですよ」
「え?」
「そういうのも」
「? ありがとうございます」
よくわからないが、支援スキルの話だろうか?
「隼人さんの方が凄いです」
「まあ、こっちでも維持はしたいですね」
「?」
「私としては直哉さんにもその体を維持して頂きたい」
「んっ? どういう事ですか?」
「グレンシアの好みなんだろうなーって!」
「!?」
「可愛い我が子には幸せになって欲しいですし、男なら好みの体を抱きたいでしょ?」
「な、なっ!?」
「裸の話では?」
「……っ」
話が食い違い過ぎていて、よ、よくわからないがっ! 恥ずかしい! 俺は裸でシャワー浴びながらなんて話をしているんだろうか!? きっと、俺が隼人さんの裸をじっと見た事が原因だ。俺、変に思われてるよなやっぱり!
「ご、ごめんなさいっ俺勘違いしててっ俺は……」
「まあ、わかってましたけど」
「!?」
「そうだ。明日から一緒に走りませんか? 4時に起きないといけませんけど、いかがです?」
「か、考えておきます……」
話を逸らされたんだよね? いや、またシャワーを一緒に浴びましょうって誘われた? 隼人さん俺をからかってる!
恥ずかしくなった俺は先にシャワーから上がって、用意された服を開いた。
「……!?」
これ……って! も、元カノの服だ……。
「なんで俺にまで!? す、スカートなんだけど……!」
隼人さんは自分の元カノの服を男性に着せる趣味があるのだろうか?
それに、下着まで。布面積の少ないセクシーな女性ものだ。
ふわふわやわらかい。顔に近付けている訳でもないのにふんわりいい香りが――。
俺何考えて、うわああっ! これを履いてしまったら変態の仲間入りだと思うから全力で拒否したい!
「直哉さん、女性のショーツを持ってどうしたんです?」
「――っ!?」
「着ないんですか?」
「俺にはこういう変態な趣味は無くて!」
「興奮してるじゃないですか」
隼人さんは後ろから抱きしめてくる。俺の手から元カノのパンツを取ると少しもたげた俺のそれにパンツを置く様に被せた。隼人さんは元カノのパンツの上からモノを指先で扱き始め、俺のそれは大きくなってしまう。
「!? ……あっ! ちょっ!? 隼人さん、何してるんですか!? 倫理的にこういうの良くないです!」
「我慢できるんですか? なかなか大きくなってますけど」
「我慢できます、放してくださいっ!」
解放された俺は膝と手を床に着いて耐える。その間に隼人さんはパンツを洗濯かごに放り入れて、何事もないように服を着るが……。
「つらいのなら、抜きますよ? 自分で抜いてくれても全然いいです。私は見ているのでご自由に興奮して下さい」
「そんな……お、俺は平気です。申し訳ないのですが、隼人さんの下着と服を貸してくれませんか?」
「……」
「変な意味じゃないですからね!」
「いえ、逆に……むしろ、その発想がなくて目から鱗です」
え、なにそれ。俺がめちゃくちゃ変態思考みたいな!
俺は隼人さんから受け取ったトランクスを身に着けた。すると、隼人さんのうきうきとした視線と目が合ってしまう。
「なんか、むしろこういうのこそがあれですかね!」
「何言ってるんですか……?」
隼人さんが謎テンションで怖い。
とにかく、これで女装しなくて済むと思っていたのに、問題が。
シャツぶかぶかだし、ズボンは長い。俺の着ている隼人さんのシャツがワンピースみたくなっていて、袖も長くて、萌え袖に……これでは彼氏の服を着ている状態だ! 女の子でもないのに体格差がはっきりわかってへこむ!
「……グレンシアへ見せに行きましょうか」
「行かないですよ!?」
「私はいいですよ。その姿で直哉さんがグレンシアに抱かれても」
「いや、どんなプレイですか!」
「引き裂いてくれてもいいですし」
「グレンシアはそんな事しません!」
うう、怖いよ! で、でも隼人さんのジョークなんだろうし……。真に受けて返すのもよくないよな。
「サイズが合わないんで、さっきの服をお借りします」
俺は、隼人さんの下着と隼人さんの元カノの服という謎の組み合わせで脱衣所を出た。
「女装なんて初めてだ……」
すーすーする下半身に、開けた胸元。やわらかく薄い生地。未経験の感覚が俺を戸惑わせた――。
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